実は○○○でした。
ちょっと無理矢理かも……
期末テストも終わり、無事に夏休みに入って数日。
僕は冷房が程良く効いたリビングにてテレビを観ている。
今、映っているテレビからは
『全国的に猛暑で、昨日の最高気温が40℃を記録した』
とかいうニュースが流れている。
「ふ〜〜〜〜ん、暑そうだね〜〜」
麦茶片手にそんな感想を言っていると、リビングに涼が入ってきた。
汗だくで今にも倒れそうなくらいフラフラだ。
「はひぃ〜〜〜〜、暑かった」
ドンという音を立て、テーブルに二つの大きなエコバックをおく。
「あら、買い物ありがとう」
台所から母さんが声を飛ばす。
涼は冷蔵庫を開け、麦茶を取り出すと、コップに注ぎ一気に飲み干した。
「プハァ、生き返った〜〜」
「外、やっぱり暑かったか?」
「うん、途中で倒れるかと思ったよ」
「そうか……」
やっぱ、外は暑いか……。
当分、外にはでないでおこう。
「兄さん、最近出歩いてないでしょ?引きこもるのは良くないよ?」
「外に出たらどんな事態になるか分かっているのに、誰が好き好んで外に出るかっての」
その時、ニュースだった番組が終わりCMになった。
軽快な音楽が流れてくる。
画面には上空から撮ったのであろう、広大な土地にいくつものプールが広がっていた。
どうやら、新しくリニューアルオープンした遊園地のプールのCMみたいだ。
「いいな〜、プール。行きたいな〜」
「確かになぁ……」
だけど、着くまでにくたばりそうだな……。
それに、人が多いだろいし……。
「いいな〜〜」
CMが終わっても、涼は指を加えてテレビを……っておい、なんで僕を見る。
「いいな〜」
「…………」
「いいな〜」
「…………」
「いいな〜」
「……そんなに行きたいなら友達と行ってきなよ」
このまま耳元で言われるのは鬱陶しい。
「ダメよ」
後ろから母さんの声が響いた。
「なんでダメなのさ?別にいいんじゃないの?」
とりあえず疑問に感じたので聞いてみる。
「ダメなものはダメなのよ」
「それは理不尽じゃないの母さん」
「そうだよ!ボク、一度もプールに行ったことないし、学校のプールも経験ないし……なんで?」
「それは……っ」
珍しく母さんが焦っている。
というか涼、お前はプールに行ったことなかったのか……。
「……仕方ないわね。そろそろ、真実を伝えないといけないわね……」
あれ?なんか、急にシリアスな感じになったな……。
なんでこんなことに?
また、父さんが何かしでかしたのか?
「真実ってなに?」
「嘘偽りのないことだ」
「……兄さん、ボクは言葉の意味を聞いてるんじゃないよ」
「……すまん」
別にいいじゃないか。
ちょっとボケてみただけなのに……。
「で、ボクの真実ってなにさ?」
母さんは難しそうな顔をしている。
「涼、あんた自分の性別……分かってる?」
『はっ?』
僕と涼の声がハモる。
「涼は男だろ」
「ボクは男だよ」
それがどうかしたのか?
まさか、『実は女の子でした〜』とかいうのか?
ははは、そんな事ある訳が……
あれ?母さん?何でそこで目をそらすの?
まさか……本当に……。
い、いや、そんな訳がある訳ない。
第一、まず本人が気付くはずだ!
「……どうやら、霞は感づいたようね」
「――っ!と言うことはまさか!?」
「……そのまさかよ」
「えっ?ええっ?」なんてこった……。
こりゃ、びっくりどころじゃないよ。
「に、兄さん。話が見えないんだけど……」
涼がオロオロとしている。
多分、この事実は本人が一番驚くことになるだろう。
まさか……
まさか………
「涼、あんたは"女の子"なのよ」
母さんから告げられる真実。
涼は自分の理解の範疇を越えたらしく、ポカンとした表情をしている。
しばらく、その状態が続いた。
「か、母さん?なんだって?」
涼が解凍されると、頬がひきつらせながら母さんに詰め寄る。
「涼、あなたは"女の子"なの」
母さんが視線を反らしていう。
何らかの後ろめたさがあるみたいだ。
涼は涼で雷に撃たれたような感じになっちゃっている。
そんな時、玄関がガチャと音を立て開く音がする。
「ただいま」
「ただいま帰りました」
舞と朱里さんの声。
そのまま、二人はリビングに入ってくる。
「あれ?兄上、愚弟は一体どうしたのですか?」
「なんか……固まってますね」
両手に紙袋を抱えた二人はテーブルにその紙袋を置く。
涼は外から汗だくで帰ってきたのに、この二人は汗すらかいていないな……。
「涼は今、自分の真実を知って頭の中がオーバーロード状態なんだよ……」
僕は左右に振りながら言い、さらに続ける。
「正直、僕も真実を知った時は驚いたよ」
「……あの、兄上?愚弟の真実とは……?」
「そうだね、舞の言う"愚弟"が"愚妹"だったということかな」
「ハッ?」
意味が分からず、目が点になる舞。
一方、朱里さんは感づいたらしく驚いた表情をしている。
「……つまり、涼は"女の子"だったということさ」
「えっ!ウソ!?」
まぁ、母さんが『なんちゃって』とかいう可能性は無きにしもあらずなんだけど……。
今の母さんの表情からして本当っぽい。
「母さん、本当に涼は……」
「本当よ」
……あ〜〜、どうコメントしたらいいのだろうか?
とりあえず涼、ご愁傷様。
僕がしてあげられることは何もない。
まぁ、あったとしてもなにもしないけど……。
「兄さん!」
涼が復活。
胸ぐらを掴むような勢いで僕に詰め寄る。
実際、胸ぐらを掴まれていた。
「確かめて!」
「……何を?」
「ボクが本当に"女の子"か!」
はい?一体どうやって確かめろって言うんだ?
僕が涼を訝しんだ目で見ていると、涼はおもむろに服を脱ぎ始め……
「って、おい!やめんかぁ!」
「え?」
ふぅ、危ない危ない……。
へそが出ている程度で助かった。
「舞、朱里さん。涼を頼みます」
「了解です兄上」
「はい、分かりました」
では、僕はリビングから一時撤退と行きましょうか。
数分後……
「兄上、どうぞ」
廊下で待っていた僕に舞が声をかける。
リビングに入ると、涼が涙目でいた。
なんとか泣かないで頑張っている。
しかし、廊下は暑かったな……。
「なぁ、母さん。なんで涼を"男"として育てたんだ?いつかバレる事くらい分かってただろ?」
一番疑問だったことを母さんに尋ねる。
僕の質問に共感したらしく、舞と朱里さんが頷いた。
「いつか話さないといけないとは分かってたわ……」
「だったら、なんで?」
「……………のよ」
「え?」
声があまりにも小さすぎて聞こえなかった。
「母さん、なんだって?」
「……一姫二太郎」
「は?」
「子供は一姫二太郎が良かったのよ!」
『はあぁぁぁぁぁ!?』
みんながハモった。
そりゃもう見事に。
というか、"一姫二太郎"ってアレだよな。
子供は一番目は女の子で二番目は男の子が良いって奴だよな……。
でも、最初に生まれた僕は男。
そりゃ、男として育てられましたよ。
てことは、母さんが言ってるのは、間違った捉え方をした方じゃないか?女の子は1人、男の子は2人が良いっていう方。
これ、間違いなんだよ?
「母さん、"一姫二太郎"の意味、多分間違って認識してると思うよ?正しくは、"子供は一番目は女の子、二番目は男の子が良い"だよ」
「あら、そうなの?勘違いしちゃってたのね」
……不憫だ。
あまりにも涼が可哀想だ。
「クスン、女の子だったんだ……。ボク、女の子だったんだ……」
「涼、アナタはそりゃもう立派に"女の子"です」
「うわ〜〜〜〜〜ん!」
舞が追い討ちをかけ、遂に涼は泣き出してしまった。
母さんの意味の分からない理由の為、しかもその理由は勘違いによる間違いだったとは……流石に同情するよ。
けど、涼も普通、学校の保健の授業で気がつくと思うんだけどな……。
「兄さ〜〜〜〜ん」
涼が僕に泣きついてきた。
とりあえず、僕は涼の頭を撫でてあげた。
しばらくそうしてあげると、涼さ泣き疲れてしまったのか、静かに寝息をたて始めた。
仕方ない、涼の部屋に運ぶとしますか。
「ちょっと涼を部屋に置いてくるよ」
僕は涼を脇に抱える。
「兄上、その運び方はちょっと……」
「確かにカスミさん、それは……」
女性陣からの非難。
この運び方のどこが悪いんだ?
仕方なく、背中に負ぶうことした。
はぁ、全く、世話が焼けるよ。
本当……。
どうも、月見 岳です。 ついに、涼の真実が明らかになっちゃいました。 正直、今じゃなくても良かったと思いましたが……。 次回はどうなることやら……。