霞、つかれる。
長いです。いつもより二倍くらい。
朝。
今では日課になりつつあるシバ吉との散歩をしている時だった。
「……あれ?こんなの在ったかな?」
僕の目の前には、石柱みたいなものが建っている。
いつもと違う散歩コースを行こうとして獣道を通ったら、これを見つけたのだ。
「あ、なんか書いてある。え〜〜と?」
僕は刻まれている文字を読もうとしたけど、かなり古いものらしく、読みにくい。
それに……。
「漢字ばっかりだな……」
古典は少し苦手なんだよな……。
僕は結局、解読することを諦めた。
「ホント何だろ、これ」
僕はちょっと石柱に触れた。
―ガラガラガラ!―
壮大な音をたて、石柱があっという間に崩れてしまった。
「ぼ、僕のせい?」
どうしたものか。
周りには誰もいない(いるはずかない)からこのままトンズラしちゃうか。
「シバ吉、帰るぞ!」
僕はそう言ってシュッと消える。
「ワン」
シバ吉も一度吠えてから、僕と同じようにシュッと消えた。
残ったのは元・謎の石柱の瓦礫だけだった。
朝のシバ吉の散歩から帰ってきて、僕は調子が悪かった。
体は今までに無いくらい怠いし、なんか肩が重たい。
学校を休もうかと思ったけど、母さんに有無を言わずに放り出された。
文字通りに。
仕方なく学校へ歩き出すと、車が急にハンドルをきって僕に突っ込んでくるし、黒猫が大量に襲いかかってきた。
とりあえず、車は飛び越えたし、猫は返り討ちにした。
えっ、動物虐待?動物愛護法違反?
大丈夫、シバ吉がしたから。
まぁ、そんな感じでどうも調子が悪い。
「はぁ、疲れた……」
学校に来るだけで疲労感を覚えるなんて……忍者として恥ずかしい。
それにしても、体が重たい。
特に肩のあたりが重い。
あるで……そう、人が乗っかってるみたいに……。
「おはよ、霞君。それどうしたの?」
教室に入ってきた鳴海が言う。
。
それに今日は東と一緒に登校じゃないのか……。
「それってなに?」
「あ……いや、霞君憑かれてるなって思ってね」
「まぁ、疲れてるよ?」
「あ、分かってたんだ」
……馬鹿にしてるのか?
疲労感ぐらい分かるよ、生き物だし。
「体が重いし、やる気は出ないし……て、それは元からか。それに全身を支配する倦怠感。これを『疲れている』と言わずしてどうする」
「確かに、『憑かれる』とそうなるからね」
はあ〜、しんどいよ〜。
あ、今日体育ある日じゃないか!?
どうしょう、サボっちゃおうかな……。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
僕の回答に鳴海は眉をしかめる。
どうかしたか?
「霞君。今日の帰りにウチに寄ってよ」
鳴海んち?
確か鳴海のウチは神社だっけ。
豊稲神社といったかな?
「鳴海んちといったら豊稲神社だよね?」
「そうだよ」
う〜〜ん、疲れてるからな〜〜。
「疲れてるし……止めとくよ」
「憑かれてるからきてほしいんだけど」
疲れてるから?
疲れに効くものでもあるんだろうか?
だったら行こうかな……。
「分かったよ。帰りに寄らせてもらうよ」
「うん、じゃあ放課後ね」
こうして僕は豊稲神社行きが決定した。
豊稲神社は霧瀬市の中心から少し離れた場所にある。
山の中腹に位置し、元旦には初詣の人で賑わう。
まあまあ規模の大きい神社ってところだ。
そんな豊稲神社に鳴海は住んでいる。
豊稲神社の神主が鳴海の父親だからだ。
鳴海本人は巫女をやってるらしいが……見たことはない。
「霞君、ここで待っててね」
僕は鳴海に連れられてきたのは、豊稲神社の社。
そこで待たされている。
「……なんか、少し朝よりマシかも」
少しだけ楽になったような気がする。
あくまで気のせいだけど……。
ふと、僕は時間が気になって腕時計を見る。
17時07分
場合によっては少し帰りが遅くなるもしれない。
母さんに連絡しておこう。
僕は携帯を取り出し、適当にメールを打つと、母さんの携帯に送信した。
もし、母さんが見なかった場合も考えて、舞にもメールを送っておいた。
え、なんで舞かだって?
涼じゃ頼りにならないからだよ。
メールを送信し終え、携帯をしまった時、タイミング良く鳴海がやってきた。
僕は鳴海の恰好に少し驚いた。
……なぜ巫女姿?
なぜか巫女姿の鳴海。
制服姿しか見たことがないので何だか新鮮な感じがする。
しかし、それをぶち壊すものが鳴海に装備されていた。
……えっと、コルトM4A1カービン?
鳴海はアサルトライフルを背中に、腰にホルスターが二つが装備されている。
巫女にアサルトライフル。
滑稽に思えて仕方がない。
どうやらホルスターのやつはMP7A1が二丁みたいだ。
「お待たせ、霞君」
「いや、別に待ってはいないけど……その恰好はなに?」
「巫女服だけど?」
鳴海はその場でクルリと回ってみせる。
僕が聞きたいのはそういう事じゃないんだけど……。
「どう、似合ってる?」
「まぁ、ね。それより背中の"それ"が気になるんだけど」
「これ?エアソフトガンだよ。ほら、ここに東京マ○イって書いてるでしょ」
鳴海が指差したところには確かに東京マ○イと書いてある。
「いや、その使い道が知りたいんだけど」
僕がそう言うと、鳴海はキョトンとした顔をして、
「"除霊"だけど」
と、逆に不思議そうに言われた。
今時の除霊にはこんなものを使うのだろうか。
というより、なぜ除霊なんぞしなきゃならんのだ。
僕は疲労回復のため……
「じゃあ、除霊するから動かないでね」
鳴海はそう言ってM4カービンの銃口を僕に向ける。
ちょっと!なにするつもりですか!
「いくよ〜」
ヤバいよこの人!
撃つ気満々じゃないか!
エアソフトガンだからといっても銃口を向けられるのは嫌ですよ!?
それにエアソフトガンに"人に向けないでください"って書いてるでしょうが!
―シュポポポポポポ―
BB弾が発射される。
それを僕は咄嗟にかわす。
実弾を避けるより簡単なことだ。
僕が避けたことにより、発射されたBB弾は障子を突き破り外へ……
―ズドドドドドドドド―
……………へっ!?
一体なにが起こったんだ?
え〜〜と、着弾したらドッカ〜ン?
ありえん。エアソフトガンじゃそんな事が起こる訳ない。
違法改造銃か?
それはヤバいだろ。
殺傷能力ありそうだし、銃刀法違反だよ。
まぁ、僕も忍者刀持ってるし人のこと言えないけど。
「鳴海!違法改造は銃刀法違反だよ!」
「大丈夫!銃自体は改造してないから!」
だったら、あのBB弾の威力はどうなんだ!?
「改造したのは弾の方だから!銃刀法違反にはならないよ」
そうなのか!?
そういうものなのか!?
「一応、当たったら大変な事になるよ」
「いや、だったら尚更、人に銃口をむけちゃ――」
―シュポポポポ―
うわぁぁぁぁ!
また撃ってきたよ!
不意打ちだったけど何とか避けたよ。
ギリギリだったけど!
髪の毛が何本かカスったよ!
僕は鳴海から逃げるため社から出る。
「コラ!霞君逃げるな!」
「逃げなきゃ死んじゃうって!」
飛び交う銃弾……じゃなかった、一方的に飛んでくるBB弾。
僕はそれを難なく避けていく。
「むぅ〜〜〜、霞君、体育の成績悪いはずなのに……。全く当たらないよ」
しまった……。
学校では僕は運動音痴という設定だったんだ。
忍者としての力がバレたら厄介だしね。
例えば、色んな部活に勧誘されたり、体育大会では全種目を出場させられるかもしれないからね。
そんなの面倒くさい。
「えい、当たれ当たれ!」
鳴海がさらに発砲。
僕、鳴海に恨まれることしたかな……。
飛んできたBB弾を体を傾けて避ける。
僕の肩をBB弾が掠める……かと思われたけど、肩を過ぎてすぐにBB弾が炸裂した。
予想だにしていなかったことだったので、その爆風をまともに食らった。
おかげで僕は吹き飛んだけど、何とか受け身をとってダメージをなくした。
僕はズボンについた汚れを叩き落として立ち上がった時だった。
『グギャャャャャャャ!?』
人のものでも動物のものでもない、今までに聞いたことがない声。
僕は周囲を見渡したけど、なにもいない。
一体なにが……?
「霞君、今の声、聞こえた?」
「あ、あぁ聞こえたよ。一体何なんだ?」
「霞君に取り憑いていた者の声だよ」
「取り憑いていた?」
そんなオカルトチックなものが……。
「気付いてたんじゃないの?」
「いや全く」
「だって憑かれてるって言ってたじゃない」
「それは体に感じた疲れで……」
まさか、『疲れ』と『憑かれ』で双方に相違があったていうオチか?
なんか馬鹿らしくなるな。
「まぁ、互いの勘違いが分かったところで……なんか僕の背後から殺気立った気配がするんですけど」
「うん、確かにちょっとヤバいかも……」
―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―
そんな音が周囲に鳴り響く。
「霞君、後ろ……」
鳴海が僕を指差す。
いや、僕の後ろか?
僕は後ろを振り向く。
『ふぅぅぅぅ……』
……侍?
鎧に籠手、兜に腰に日本刀。
侍というより、どこぞの武将か……。
『許さん、許さんぞぉぉぉぉぉ』
うわっ、かなりご立腹のご様子ですな。
カルシウム不足なんだろうな……て、幽霊には関係ないか。
きっと、生前の時点でカルシウム不足だったんだな。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
侍が雄叫びをあげながら僕たちに突っ込んでくる。
「霞君、下がって!」
鳴海がM4カービンを構える。
―シュポポポポポポポ―
状況から考えてかなり気が抜ける音を出しながら、火を噴く(?)M4カービン。
『甘いわぁ!』
侍は刀を抜くと強烈な一振り。
この動作だけで鳴海が発射したBB弾が全て凪払われる。
……ビックリだな。
「え〜〜〜い」
鳴海がフルオート射撃で撃つ。
大量のBB弾が放たれるが、侍は巧みに刀を操り、全て払うか弾き飛ばしている。
フルオート射撃だったこともあり、すぐに弾は尽きる。
鳴海は予備のマガジンを取りたそうとするが、その隙に侍が一気に間合いを詰める。
『覚悟!』
侍が鳴海に斬りかかる。
鳴海は咄嗟にM4カービンで受け止める。
―ガキッ―
そんな感じの音を立て、刀がM4カービンの銃身の半分くらいまで刺さる。
あれじゃあ、使い物にならないな……。
……あれ?あの侍って幽霊みたいなもんじゃなかったか?
なんで鳴海のM4カービンを斬ることができたんだ?
もしかして、あいつ実体化とか言うやつをしてるんじゃないか?
「これ高いのに……」
鳴海はM4カービンを捨て、一旦侍から距離を取ると、ホルスターからMP7A1を取り出して両手に構える。
しかし、銃口を向けた先にいたはずの侍が消えている。
「え、いない?」
「鳴海、後ろだ!!」
鳴海は見ていなかったみたいだけど、僕はしっかり見ていた。
鳴海がMP7A1を取り出すのに一瞬、侍から目を外した。
その瞬間、侍は地面に潜り鳴海の後ろに出てきたところを。
僕の声に反応して、鳴海は後ろに振り向くが、既に侍は刀を振りかぶっている。
思いっ切り斬りつけて、鳴海を真っ二つにする気だ。
このままでは鳴海はやられてしまう。
……仕方がない。
鳴海は振りかぶられている刀を見て、思わず目を瞑った。
振り下ろされる刀。
その後に感じるであろう強烈な痛みを覚悟するが……。
―キィィィン―
金属音がしただけだった。
鳴海が恐る恐る目を開けてみると、予想していない光景。
霞が侍と鍔迫り合いをしている。
『ぐっ、貴様……やはり徒者ではなかったか!』
「さぁ?どうだろうね」
ガチガチと音を立てる二つの刀。
一つはよく見る普通の日本刀。
もう一つは直刀の形状をしている忍者刀。
「鳴海、早く動いてくれないか?ずっとそこにいられると困るんだが」
「あ、うん」
鳴海はとりあえず、二人(?)から距離をとる。
『そろそろ正体を現したらどうだ?』
「そうもいかないさ、友人が見てるんでね」
霞と侍は二人同時に後ろに跳び、距離をとる。
……さて、どうしたものかな?
僕が鳴海を助けた時点で、鳴海は僕の事を聞いてくるだろうな。
何だったら、忍び装束になって正体ばらしちまうか?
でも家訓がな〜〜。
霧島家・家訓
その1
"忍者たるもの、決して正体知られるべからず"
その2
"バレたときは仕方がない"
その3
"決めた事は守りましょう"
……って大丈夫じゃん。
最初はその1だけしか家訓として存在していなかったけど、確かウチの爺さんが加えたんだっけ?
その3は……確か母さんだったか?
まあ、とにかく。このままで事を進めたとしてもだ。
どの道、鳴海から追求されるだろうし、"忍者"ってことが鳴海にバレるのは時間の問題だろう。
だったら、一丁暴れますか、忍者として。
どうも月見 岳です。 今回は長かったです。 書いている内に調子に乗ってつい止める場所を見誤りしました。 本当は一話完結にするつもりだったんですが、次に続きます。 あぁ、次書いたらネタが尽きる……。