バレました。
朱里さんが霧島家にやってきて数日がたった。
僕は朱里さんがウチに居候していることを東や鳴海に知らせてない。
というか、知らせる必要はない。
ということで、今僕が陥っている状況には非常に不満である。
「どういうこと霞君?」
「どういう事だ霞?」
「霧島ぁー!貴様という奴は!!」
「落ち着け、今は抑えるんだ!」
「うがぁぁぁぁ!!」
「いかん!田中が野獣化したぞ!」
「皆、田中を押さえ込むんだ!」
とまぁ、僕の周りは非常に騒がしい。
ちなみに今僕は椅子に麻の紐で縛り付けられている。
何故、このようなことになったか僕にも分からない。
放課後、僕は家に帰るために教室から出ようとしたら、クラスメート(主に男子)が出入り口全てを封鎖。
その後、背後から接近してきた鳴海により捕縛され、椅子に座らされた。
そして今に至る。
田中と呼ばれた男子生徒は数人の男子生徒により教室より退場させられていく。
その際、押さえ込む時には犠牲になった人達も運ばれていく。
「霞君!聞いてる!?」
「いや、全く」
あ、ヤバい。
ここは『聞いてる』と言うべきだった。
正直に言っちゃった。
ほら、鳴海がプルプルと肩を震わして――
「かぁ〜すぅ〜みぃ〜くぅ〜〜ん?」
「すみませんでした!」
僕は土下座――といっても縛らり付けられて出来ないので心の中でして、実際は頭を下げた。
「あの……ところで何故僕はこんな事になってるんでしょうか?」
僕は取りあえず、今気になっていることを控えめに聞いてみる。
周りが野郎ばかり(鳴海を除く)で暑苦しい。
というか、野郎じゃなくても暑苦しいだろう。
全く、梅雨の季節も重なって最悪なんだけど。
「決まってるでしょ!朱里さんのことよ」
「だったら僕は関係――」
「あり、だよね?一緒に住んでるんだから」
……そうだった。バレたんだった。
あれは昼休み、弁当を持っていつもの中庭に行こうとしたとき、朱里さんがやってきて、必死に説得されて結局、教室で僕、鳴海、東、朱里で食べることになった。
この時の会話の中で、朱里が一人暮らしをしている話になり、この時に朱里が僕の家に下宿していることを喋ってしまい、事がバレてしまったのだ。
「まぁ、そうだね。ウチに下宿してるから」
「チクショウ!!羨ましい!!」
「美少女と一つ屋根の下なんて!」
「憎い!憎いすぎる!!」
僕の言葉に周りの野郎共が吠える。
教室が封鎖されて出ることが出来ない女子達が迷惑そうな目で見ている。
「いやホント羨ましいな」
「東、貴様もか……」
「舞さんに朱里さん。美少女揃いだな」
「そうかな?」
「鳴海だって焦ってんだろうな」
「なんで鳴海が焦るのさ」
「……いや、まぁ……なぁ?」
「僕が尋ねてるんだ。何故僕に聞く」
僕は東と会話をしながら、制服の袖から苦無を取り出し、みんなにバレないようにロープを切る作業に入る。
「霞君?どうして私たちにこの事を言ってくれなかったの?」
「なんで僕が鳴海や東に言わなきゃいけないのさ」
「だって……それは……中学からの仲なんだし……」
急に鳴海の勢いが鎮静化していく。
……逃げるなら今だ。
苦無を持つ手に力を込めて、一気にロープを切断する。
ロープが体から解けると同時に立ち上がり、僕を囲んでいる人垣を急激な加速ですり抜ける。
急なことで状況把握が出来なかった野郎共が、僕が逃げ出したことに気がつく。
「逃げやがった!」
「霧島って運動神経よかったか?」
「んなことどうでもいい!捕まえろ!」
騒然となる教室。
さっさと脱出だ。
「ここは通さん!」
教室の出入り口に立ちふさがっている巨漢。
見た目から相撲部所属ってところかな?
名前は……誰だっけ?
それ以前にクラスメートか?
「すまないが通してもらうよ。名無し君!」
僕は走る勢いをそのままに跳ぶ。
そして右足を曲げて膝を突き出す。
単なる跳び膝蹴りだ。
「グハァァァァァァ!?」
僕の跳び膝蹴りは、見事に巨漢の顔にめり込む。
断末魔をあげて巨漢は倒れていく。
安らかに眠ってくれよ。
僕は倒れている巨漢を越えて廊下を走り出す。
もちろん、鞄も忘れていない。
さぁ、家に帰ろうじゃないか。
霞が出て行った教室。
今まで霞を囲んでいた男子生徒も、すでに霞を追いかけて教室にはいない。
教室にいるのは数人の女子生徒と、東と鳴海ぐらいだ。
「鳴海、やりすぎじゃないか?」
東が教室の出入り口を睨んでいる鳴海に言う。
「なに?文句ある?」
「いや、文句と言うより疑問だな」
「疑問?なによ」
「なんで鳴海は怒ってるんだ?」
「えっ?」
鳴海は少し驚いた表情をする。
本人は怒っている自覚がなかったみたいだ。
「そ、それはやっぱり一つ屋根の下、若い男女がいるのは良くないと思って……」
「二人で住んでる訳じゃないんだ、特に問題ないだろ」
「そ、そうかもしれないけど……」
しどろもどろとする鳴海の様子を見て、東はなにかに気付いたらしく、ニヤニヤと嫌らしい目で見る。
「ははぁ〜ん、嫉妬だな」
「ち、違うよ!」
鳴海が顔を真っ赤にさせて否定する。
「そうかそうか、鳴海は霞のことがす――」
「うわぁぁぁぁぁぁ!?ダメダメ!」
鳴海はさらに顔を真っ赤にさせ、右ストレートを東の顔面にめり込ませる。
東を黙らせるため反射的に行ったことだ。
渾身の一撃に東は呆気なく意識をとばした。
「あ……だ、大丈夫東君?東君、お〜〜〜い」
倒れ込んでいる東をペシペシと叩く鳴海。
目覚める様子がない。
「起きないや、このままにして帰ろ」
鳴海は自分の席から鞄を取り、教室から出て行く。
ちょっと前まで残っていた数人の女子生徒も既に居なくなっていた。
教室に残ったのは気を失った東と巨漢の男子生徒。
東と巨漢の男子生徒が気がついたのは外が暗くなってからだった。
二人とも自分の扱いが酷いことに嘆きながら帰ったとか。
ちなみに、霞は帰ろうとして下駄場で追いかけてきた男子生徒に囲まれたらしいが、偶然に生徒指導の先生(柔道部顧問)が通りかかり、霞が集団でイジメられていると思いこんだ先生により、男子生徒達は生徒指導室に連行されて、無事に帰宅の路へつくことが出来た。
今回は早く更新できました。 さて、この作品のキャラが登場の当初と性格?が変わってきてるような気がします。 舞は無口キャラにするつもりだったし、東はあんなやられ役みたいじゃなくて、格好よくモテるキャラにするつもりだったし……。 いやはや、ノリで書くのは怖いですね。