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忍犬、シバ吉。

朱里さんが霧島家に居候する事になって次の日。

今日は土曜日で休みだ。

本来ならゆっくり惰眠を貪りたいところだけど、キッチリ朝の7時には目が覚めてしまった。

取りあえずお腹が空いたので、リビングに降りる。

既に台所で母さんが朝食の支度をしている。

それともう一人……。


「あれ?朱里さん……?」


「あっ、おはようございますカスミさん」


そう、朱里さんが台所に立っている。

ただ突っ立ってるんじゃなくて、せわしなく動き回っている。


「いい娘ね〜、朱里さん。今時あそこまで家事ができる娘はいないわよ。貰っとかない訳は無いわよ」


とか言いながら母さんが肘で僕を突っつく。

母さん、朱里さんだけに家事をまかせてなにしてんだ。


「母さん、朱里さんに家事させちゃ駄目だろ」


「あら、朱里さんが自分にやらせてくださいって言ってきたのよ。これがさせてみたら母さんより手際が良くってね〜」


だからってそれに甘えちゃいけないだろ。


「それに、お義母様は休んでいてくださいって言われちゃったしね」


「だからって……」


ん?なにか犬が吠えたような声が聞こえたような……。


―ワン!―


やっぱり……。

どうやらウチの庭から聞こえてたみたいだ。

ウチは犬なんて飼ってないはずだけど……。

僕は庭側の窓をガラガラと開ける。


―ワンワン!―


あれ?ウチの庭に犬がいる。

犬種は……柴犬か?

ご丁寧に犬小屋も設置されている。

謎の犬は、おすわりの状態で尻尾を左右に振っている。


「はて?この犬は……?」


「あ、私が連れてきたんです」


僕の後ろから朱里さんがひょこっと顔を出す。


「朱里さんが?」


「はい、こちらにくる時に桃地家に置いてくるつもりでしたが、どうしてもついてくるので仕方なく……」


「まぁ、仕方ないか……」


「ありがとうございます」


朱里さんは頭を下げた。


「この子、名前は?」


「はい、『シバ吉』と言います」


シバ吉?

まさか、柴犬だからか?

簡単に名前を決めすぎだろ。


「あの……カスミさん、すみませんがシバ吉を散歩に連れて行ってくれませんか?」


「散歩?」


「はい、今少し手が放せないもので……」


「いいよ、別に」


朱里さんからリードを受け取ると、僕は庭に出てスリッパを履く。

シバ吉の首輪にリードを取り付ける。

初めてだから少し手こずった。


「それじゃあ、行ってくる」


「はい、シバ吉をお願いします」



僕とシバ吉は朝の町に出掛けていった。




僕は取りあえず、近くの公園にやって来た。

早朝……という訳でもないが、こんな時間帯にも関わらず、散歩やジョギングをしている人が多い。


「う〜〜ん、思ったより人が多いな」


「ワン!」


お、シバ吉も賛同か?

案外、気が合いそうだな。


「そんじゃ、別のとこに行くか」


僕とシバ吉は公園から出て行った。



公園から出て僕はシバ吉と歩く。

学校に行くよりも早い事もあってか、すれ違う人も少ない。


「静かだな……」


こういう静けさは結構好きだ。

いつも僕の周りが賑やか(悪く言えばうるさい)からね。


「………?」


ふと、下から感じた視線。

シバ吉が僕を見上げていた。


「……なに?」


って、犬に聞いても意味がないか……。


―ヒュッ!―


音を立て何かが僕の顔を掠めた。

あのまま気付かず歩いていたら、確実に額に直撃だった。

頭だけ動かし、ギリギリで避けのだ。

掠めたところから少し血が出ている。

突然のことで驚いたけど、すぐに現状を把握の為に頭を働かす。

飛来物を避けることは出来たけど、どこから襲われたか分からない今、迂闊に動かない方がいい。

僕は取りあえず、飛来物が何かを確認するため、背後を確認する。

見ると、ブロック塀に苦無が突き刺さっている。

どうやら同業者の人間に襲われたみたいだな。


「――っ!」


背後から感じた殺気。

僕は咄嗟に民家の屋根に跳ぶ。

その瞬間、元いた場所に手裏剣が大量に突き刺さる。

クソ、誰だ。こんな馬鹿げた事をしやがるのは!


「チッ……」


僕は柄にもなく舌打ちをする。

朝っぱらから襲われたんじゃあ、舌打ちの一つもしたくなるもんだ。


シュッと僕の前に現れたシバ吉。


「ウゥゥ〜〜〜〜」


低い唸り声をあげ、僕に牙を見せ威嚇している。

どうやら、僕はシバ吉に襲われたみたいだな。


「シバ吉、お前、やっぱり徒者じゃなかったな」


犬相手に話しかける。


「忍犬……て奴か」


シバ吉はどこから取り出したのか苦無をくわえる。

相手はやる気満々だね。


「何のつもりか知らないけど……遊びの相手、してやるよ」


僕がそう言った瞬間、シバ吉のシュッと姿が消えた。

僕も右手を前に出す。


―バシィィィィン!!―


朝の住宅地に響き渡る音。


「まったく……」


僕はハァと溜め息を吐く。

僕の右手には尻尾を掴まれてブランブランしているシバ吉がいる。

当の本人はイマイチよく現状が分かっていないみたいだ。

勝負……僕にとって遊びは一瞬で終わった。

普通の人では認識出来ない速度で接近してくるシバ吉を、ただ右手だけで尻尾を掴んで捕まえただけ。

ただそれだけのことだ。


「さて、どうしてやろうか」


僕はそう言って黒く笑う。

それを見て、シバ吉はビクッと体をさせ、ガタガタと震え始めた。

ちょっとやりすぎたか……。


「安心しなよ、別に捕って食おうとする訳じゃないよ」


そう言って、僕はシバ吉を離す。


「さて、そろそろ戻ろう。朝ご飯を食べないとな」


「ワン!」


ご飯という言葉に反応したのか、シバ吉は涎を垂らしている。


「お前、食い意地は張ってそうだな」


僕とシバ吉は帰宅への路へついた。



「ただいま」


「お帰りなさいカスミさん」


家に帰ると朱里が迎えてくれた。

お、和食か。


「カスミさん、その傷は……」


「ん?これ?シバ吉と遊んだ時にちょっとね」


「遊んだ……て、やはりシバ吉に襲われたのですか!?」


「やはり?」


どういう事だ?

想定していたことなのか?


「いえ、シバ吉は初対面で力量のある方とよく勝負をするのです」


「はぁ?なんで?」


「シバ吉は勝負をする事で、相手が主として相応しいか確かめているのです。どうやら、カスミさんはシバ吉に認められたようですね」


そうだったんだ。

忍犬特有の遊びだと思ってた。


「さて、私はシバ吉に餌をやってきますね」


朱里さんはそう言うと、庭に出て行った。

朝ご飯を食べながら、庭の様子を窺う。

シバ吉は尻尾を左右に振って、朱里さんが餌入れにドッグフードを入れているのをジッと見ている。

あっ、涎が垂れている。

朱里さんの『おすわり』と『待て』の指示を守り、『よし』の声で餌に飛びついた。

餌に食いつく様子からは普通の犬と変わらない。

……忍犬には見えないな。

僕はシバ吉に少し呆れながら朝食を食べるのだった。

前回のあとがきにて、東が登場すると言いましたが……すみません、登場しませんでした。 まぁ、影の薄いキャラだから仕方ない……としましょう。 次回はチョイ役で登場……かも。

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