霞のお嫁さん
髪を切ってすっかりこの髪型に慣れて、数日がたったある日のことだった。
その日は土曜日で、僕は前日の学校からの帰りに寄った、某有名レンタルショップから借りてきた映画を観ていた。
前回はアクションだったけど今回はSFだ。
地球にUFOがやってきて攻撃してくる。人類は力を合わせて、全世界一斉攻撃を仕掛けるとかいうハリウッド映画だ。
事の始まりは、物語が終盤に入った頃だった。
台所で夕飯の支度をしていた母さんが唐突に言ってきた。
「あっ、霞。あんたのお嫁さん決まったから」
「ふぅ〜〜ん」
……あれ?なんか流しちゃいけないような言葉じゃなかったっけ?
「母さん、今何だって?」
「聞いてなかったの?返事してたじゃない」
「映画に集中してたから聞き流した」
「あんたねぇ〜〜」
ハァと母さんが溜め息をつく。
「もう一度言うわよ。あんたにお嫁さんができたわよ」
「…………」
僕はテレビの画面を観たまま固まる。
……お嫁さんって、あれだよな。結婚の相手で……えっ、お嫁さん?誰の?確か母さんは『あんたに』て言ってたよな……。その時母さんと会話をしていたのは僕だけだし、部屋にも母さんと僕しかいない。つまり母さんの言う『あんた』は僕のことであり、つまり僕にお嫁さんができたといことで……。
「ええ〜〜〜!?」
「ちょっと、びっくりするじゃない」
「こっちの方がびっくりだよ!」
テレビの画面では沢山のF-15が隊列を組んで飛んでいる。クライマックスまで近い所までいっている。
だけどもう映画どころでない、こっちは勝手に人生の相手を決められなければいけないか問い詰めなければならない。
「どういうことだよ!」
「どういうこともなにも、めでたくお嫁さんが出来たってことよ」
「なんで!」
「そりゃ、相手があんたのことを気に入ったからに決まってるじゃない」
「あ〜〜〜っ!そういうことじゃなくて!」
僕はイラついて頭をガシガシと掻く。
「どうして勝手に人の人生を左右しちゃうようなことするのさ!」
「だって、あんた霧島家の跡継ぎじゃない」
「だからなんなのさ!」
「だから霧島家の忍者を残していくために他の一族からお嫁さんをもらわないと……」
「だったら僕じゃなくて涼でもいいじゃないか!」
「涼では無理なのよ」
「どうして」
「どうしても」
「そんなの理不尽だっ!!」
「まっ、このことに関しては夕飯の後に父さんから詳しい話があるから」
「やっぱ父さんが原因か!」
「あ〜〜もう、ギャーギャーうるさいわよ。ちょっと静かにしなさい。さもないと……ねぇ?」
母さんが包丁を片手に、笑顔でこちらに振り向く。
笑顔だけど眼が笑っていない。
背中がゾクリとする。
僕は否応なしに黙らされることになった。
「さあ、話せ。やれ話せ。とにかく話せ、馬鹿親父」
父さんが夕飯を食べ終わった頃を見計らって、僕は父さんに詰め寄った。
「か、霞?一体何のことだ?父さんにはサッパリ……それに馬鹿親父とはあんまりだ」
「戯言は聞きたくない」
「な、なんか兄さん怖い……」
涼が僕の剣幕に少し震えている。
これは仕方がない事なんだよ涼。
こいつはとんでも無いことをしてくれちゃったんだ。
「父さん、よくも人の人生を左右するようなことをしちゃってくれたね……」
「うむ、何のことだ?」
「とぼけないで!」
バンと両手でテーブルを叩く。
「なに勝手に人の結婚相手決めてるんだよ!」
僕の言葉に涼は呆然とし、父さんはなにか心当たりがあったみたいで顎に手をあて笑っている。
「あぁ、その事か。良かったろ、嫁さんができて」
「良くない!」
「可愛くて家事も出来るし……いい娘だぞ?」
そう言って父さんは写真を見せる。
お見合い写真みたいな感じの写真だ。
写真の中の娘は満面の笑みで笑ってる。
なんか、笑顔が眩しい。
セミロングぐらいの髪で、パッチリした目をしていてスッキリとした顔立ち。
将来的には、美人になることだろう。
しかし、今はまだ『愛らしい』の範疇に入る……そんな感じの女の子だ。
「忍三家の桃地家の三女、桃地 朱里さんだ。忍者としても腕がたつぞ」
「……しのびさんけ?なにそれ?」
「兄さん、興味もつのそこなんだ」
うるさい、涼。
「あぁ、そうか。お前たちはまだ知らないんだったな。いい機会だ、教えておいてやる。『世界』というものの一部をな」
すごく真面目な顔をして父さんは言った。
僕が今まで見てきたグーたらな父さんとは違った感じの雰囲気だった。
え〜〜、題名が『霞のお嫁さん』のくせに、お嫁さんが登場する訳でもなく、名前のみの登場となってしまいました。どうもすみません。 次回は少し真面目な話(の予定)になります。