散髪にいこう(後編)
いつの間にか2000HITを超えていた……
僕と涼はならんで町を歩く。
今更だけど、僕が住んでいる所は霧瀬市というところだ。
町の真ん中を川が流れていて、冬にはよく町全体が霧に包まれる。
町の中心は比較的発展しているけど、少し離れると田園風景が広がっている。
そして、僕達が歩いているのは比較的発展している駅の周辺、駅前の商店街だ。
近年、シャッター通りに成りつつあるような商店街と違い、結構活気付いていて、夕方には主婦の方々や学生で賑わう。
僕も母さんに頼まれて(脅されて)よくおつかいにきたりしたりしてお世話になっている。
「あっ!霧島君!」
なんか聞き覚えがある声がしたような気がする。
僕は声がした方向を見てみた。
だけど人が多く、魚屋さんとか八百屋さんのおっちゃんの声とかの人の声でよくわからない。
気のせいかな……。
「兄さんどうしたの?」
「いや、なんか『霧島君』て呼ばれた気がして……」
「そう?ボクは聞こえなかったよ?」
「ん〜、空耳かな〜?」
僕は腕を組んで、再び歩き出す。
きっと頭の上にハテナが3つぐらい浮かんでいるだろう。
「き〜り〜し〜ま〜く〜ん」
再び聞こえた声。
どこかで聞き覚えがあると思ったら鳴海の声だ。
「霧島く〜ん」
後ろを振り返ると、鳴海がこっちに走ってきていた。
「奇遇だね霧島君。君も買い物?」
「いや、散髪にね」
「へ〜、ついに髪切るんだ〜。前髪もバッサリ?」
鳴海はニコニコと笑顔だ。
だけど、隣にいる涼に気付き笑顔が固まった。
「き、霧島君。この隣の人は……ま、まさか彼女!?」
……へ?彼女?
まさか涼のことを言ってるのか?
「彼女って……もしかしてコイツのこと?」
僕はそう言って涼を指差す。
それに鳴海はコクリと頷いた。
「ハハハ、コイツは僕の『弟』だよ。『彼女』じゃないよ」
「おとう、と?」
「弟」
「……男の子なんだ」
鳴海は感嘆の声をだす。
その反応に涼はヘコんでいた。
「ほら涼、自己紹介」
「あ、霧島 涼です……男です」
「滝川 鳴海です。ゴメンね、勘違いしちゃって」
「いえ、もう諦めましたから……」
なんか、涼は女の子に間違えられるのに諦めの境地にいるようだ。
「それじゃあ霧島君に弟君、私まだ用事あるから、じゃあね」
鳴海は踵を返して人混みの中に消えていった。
一体、鳴海はなにがあって僕に声をかけたんだろ?
考えでもって分かるわけがない。
仕方がない、僕達も行きますか。
僕は再び歩き出した。
だけど、涼がまだヘコんでいるらしく足取りが重い。
結局、涼はそのまま立ち直らず、僕はその後ろを歩いていくしかなかった。
おかげで大分到着が遅れることになった。
「ここがそうなのか?」
「うん」
その店は商店街の少し路地に入った所にあった。
見た目落ち着いた感じの外観の店舗だ。
「さっ、兄さん入るよ」
「えっ?あっ、少し待て」
だけど涼は僕の手をグイグイと引っ張っていく。
「こんにちは〜」
「いらっしゃ〜い」
涼は店員さんとそんなやり取りをして店内に入った。
店内も外観と同じく落ち着いた感じの雰囲気だ。
なかなかはやりそうだけど、店内には客らしき人はいなかった。
「今日はボクの兄さんをお願いします」
「涼君のお兄さんか、分かったよ」
知らぬ間に涼が若い男性に僕のことをお願いしていた。
「お兄さん、こっち座って」
僕は指定された椅子に座る。
涼は近くのソファーに座ってこっちを見ている。
「どんな髪型にする?」
「……まかせます」
どんな髪型がいいか言われても、僕にはどんなのがいいのか分からない。
「そっか、分かったよ」
男性はハサミを手に取る。
これからが大変だ。
『刃物を向けられる』という行為による防衛行動を起こさないように耐えなければならない。
「兄さん」
「なんだい涼、僕はこれからの戦いに備えて精神集中してるんだけど」
「はい」
そう言って渡されたのは缶コーヒー(カフェ・オレ)
「少し落ち着きなよ」
「そ、そうだね」
僕は缶コーヒーをグイッと飲む。
この時、緊張していたからか僕は気がつかなかった。
渡された時、すでに缶コーヒーが開けられていたという不自然さに……。
「……っ!」
急に襲ってきた眠気。
あまりの眠気に手に持っている缶コーヒーを落としそうになる。
しかし、落ちる前に涼が奪い取る。
どうやら、僕が飲んだ缶コーヒーに睡眠薬が混ぜられていたようだ。
しかも、普通の睡眠薬では考えられない即効性。
これは多分、舞が調合した忍び薬の睡眠薬だ。
そこまで判断したけど、襲い来る眠気に抗えない。
薄れてゆく意識……もうダメ。
こうして僕は夢の世界に旅立った。
僕は体が揺らされる感覚を受け、夢の世界から現実に戻っていく。
「……んあっ?」
「やっと起きた」
僕は少し寝ぼけた感じのまま体を起こす。
どうやらソファーに寝かされていたみたいだ。
「よく寝てましたね」
店の若い男性がやって来て言った。
「お兄さんが寝ている間に髪を切らしていただきましたよ」
男性はそう言うと鏡をこちらにむけた。
そこには目を隠すどころでなく、顔を隠しそうなぐらいあった前髪がバッサリ切られており、忍装束の時ぐらいにしか見ることのなかった目があらわれている。
少し鋭いけど優しさが感じられる目だった。ボサボサだった髪も少し長めで置かれている。
「兄さん、格好いいよ。髪をちゃんとしただけども人って変わるんだね」
「……そうか?僕はただ視界が広くなったとしか思わないけど」
前は前髪のせいでよく見えなかった。
「兄さん、明日学校に行ったらきっとスゴいよ」
なにがスゴいのかよく分からないけど、涼の目は輝いていた。
背中に視線を感じながら、とりあえず僕は会計をしにいった。
……美容院で髪を切るのに結構お金かかるんだな。
母さんがお金を出してくれて良かったよ。
お金を払い、僕と涼は店を出た。
家に帰る途中、涼が寄り道をしようと言ってきたけど、僕は断って真っ直ぐ家に帰った。
その間、涼は頬を膨らましてずっと怒っていた。
そんなんだったらひとりで行けばいいのに……。
なんかグダグダな小説を読んでいただきありがとうございます。おかげで2000HITにいってました。これからもコツコツと頑張っていきます。前回、バトルをやってみましたが、正直なところ訳が分からなくなりました。ちなみに、メイドさんはもう出ません。この小説ですが、とりあえずこのまま平和に話を続けていくつもりです。主人公などにやらせたいこととかなにかあったらお申し下さい。