第二十章 隆平
あいつ、やっと自分の気持ちに素直になれたかな。
頬に手の甲を押さえ付けながら本を読むあいつを、俺はニヤニヤしながら眺めていた。
今まで森沢は、自分の気持ちを表情に出そうとしなかった。だからその分、森沢が表情を作ると、なかなかおもしろい。おぅ、今度は口元が緩み始めてる……。
放課後、俺はまた玄関で佐奈恵を待った。あいつもそろそろ自分の気持ちに気付き始めてるころだろうな。
「よっ、元気か?」
いつも通り声をかける。
「あっ、長野さんー! 会いたかったですよ。最近ずっと誰かとしゃべってばっかで、話しかけずらかったんですよ?」
頬を少しふくらまし、不満顔の佐奈恵を見て、笑いながら本本題に入った。
「最近、何か悩みとかあるか? 相談に乗るぜ? 恋愛相談でも」
佐奈恵はえっ、と声を上げ顔を赤くしてうつむいた。
「誰か好きになったとか?」
にやっとしながら聞く俺を、佐奈恵は頬を紅潮させながら睨んだ。
「別に、そんなんじゃないです……」
玄関からひとまず出ながら、佐奈恵はさっきまで合わせていた目をそらした。これは佐奈恵がうそを付いたときにする行動だ。
「おいおい、無理に隠さなくてもいいぜ? 互いに、長年ずっとくっついていた仲だろ。こう見えて口は固い。何せあだ名がハマグリ長野だからな」
安心されるように、優しく笑ってみせる。すると佐奈恵は、上目遣いにこちらをちらっと見た後、歩き出しながら小さな声で話した。
「たぶん私、森沢さんのこと好きになっちゃったんです。だって最近、頭の中が森沢さんでいっぱいだし、森沢さんのこと思い出すだけで鼓動が早くなる。すっごく気になってしかたがない。これって、好きっていう症状なんですよね?」
やっぱり。ちゃんと気付いてたぜ。
うなずきながら、答えた。
「それは、好きっていうことだな。よかったじゃねぇか。ムコウもお前に好意があるみたいだぜ?」
途端に彼女が顔を真っ赤にして、前髪を撫でつけて目を少し隠し、うつむいた。単純でかわいい奴だな。
「両想いって、ところだよなー」
そう言うと佐奈恵はまた顔を上げ、反論してきた。
「でも、前話したとき、森沢さんすっごく冷たかったんですよ? 無愛想で、しかめっ面しかしてなくて……」
森沢よりしかめっ面で反論する佐奈恵の目は言葉と
は裏腹に、でも優しかった、と言っていた。
「男ってのはそんなもんよ。なかなか素直になれねぇんだよな」
すると佐奈恵はぱっと目を見開き、大きく頷いた。口にこそ出していないが、よかった! と言っているように少し笑顔だった。
「今日はとりあえず帰ろうぜ。佐奈恵の家まで送ってやるよ」
「えっ、そんな。いいですよ別に!」
そんな言葉も気にせずに先にスタスタ歩く。後ろから佐奈恵が抗議の声を上げたが、そんな声もわざと無視して歩き続ける。
「ちょっとはゆるめてくださいよー!」
不満顔の佐奈恵が後ろから一所懸命小走りで追いついてきた。その姿がまるでアヒルの子供のようでかわいくて、おもしろかった。
追いついて来たので今度はもう少し歩く速度を速める。すると、佐奈恵は小走りでついてきた。そんな佐奈恵を俺はぐっと自分のところへ引き寄せ、頭をくしゃくしゃに撫で、髪を乱れさせてみた。佐奈恵は抗議の声は上げるものの、とくに抵抗はせず、そのままうれしそうに撫でられていた。
こいつ、あんまり森沢に渡したくねえな……。そう思いながら佐奈恵を笑いながらぎゅうっと抱きしめ、家の玄関で離した。
「じゃ、また明日な」
「はーい、さようならー」
佐奈恵が家に入っていくのを見届け、自分の家へ帰った。
森沢に佐奈恵はもったいないかもしれない。でも、親友としてそれでいいのか? ……つまり俺も、佐奈恵が好きなんだな。
うーん、と伸びをしながら俺は家に帰った。
読んでいただき、ありがとうございます!!
毎日一所懸命書き書きしながら直したり付け加えたりして、小説を楽しんでもらえるようにがんばっているのですが、どうでしょうか?
ところで、とってもうれしいことがありました。なんと、ブックマークが二件に増えていたのです! 文章力があまりない私にとっては、とてもうれしいことです! 本当にありがとうございます!!
これからも一緒懸命楽しんでもらえるよう、小説を更新していくので、よろしくお願いします!!