第二章 森沢 学
間に合った……。僕としたことが、ぎりぎりの時間に家を出てしまうとは。父さんが休みで、「学、バスの時間!」と大声で言ってくれなければ、完全に遅刻するところだった。
息を切らしながら、カードを取り出し、バスの一番後ろから二番目の席に座った。ふぅ、と一息つき、最近はまっている、「月影祭司」のイギリス原作版をカバンから取り出し、読み始めた。
一つ二つとバス停に停車しては学生たちが乗ってくるが、僕の隣にはまだ誰も座らない。
またバスが停まった。今度は一人しか乗ってこなかった。足音からそうわかったのだ。その足音は僕の近くで止まった。
「隣いいですか?」
控えめな女の子の声だ。
しばらく僕に声をかけたのだということに気が付かなかったが、ちらりと本から目を離すと、こちらを控えめに見ている、同じ制服を着た女の子が僕の瞳に映った。声を掛けてきたのが女子だということにも驚いたが、何より驚いたのが、なぜかなつかしい気がするということだ。
「どうぞ」
少し無愛想に映ったかもしれない。彼女は、ありがとうございます、と丁寧にお礼を言い、座った。黒髪で一つ結びの飾りっ気のない髪形。ちょっと猫背気味だ。きりっとした眉と少し釣り眼気味、色白のその顔は猫を連想させる。
ふと彼女と目が合い、決まり悪くなって視線を本に落とした。
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