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Trick and treat  作者: T.S キャロル
17/22

第十七章 佐奈恵

 なんだか九月もあっという間で、もう後三日後の金曜日には十月になる。運動会のあった日から、かなり経っているというのに、最近森沢さんには会ってない。なんとなく、長野さんに聞いてみようと、教室を出た。

「おっ、佐奈恵、どうした」

 ちょうど廊下で会えたのでよかった。

「うん、あの、森沢さんのことなんですけど……」

 すると、長野さんはなぜかにやっと笑った。

「おぅ、あいつもお前のこと聞いて来たぜ。どうしてるか、とか」

「へっ……?」

 驚いてしまった。でも、なぜ森沢さんが?

「はい……」

 とりあえず、よくわからない気分で教室に戻って行った。

 今は五時間目の後の休み時間で、後は六時間目と部活で終わりだった。六時間目は数学で、はっきり言って、数学は苦手だった。文字の計算なんて、もうとっくに一学期のうちに終わっているはずなのに、まだ理解しきれていない。


 数学、清掃、終学活が終わり、私は部活へ向かった。私の所属している部は、手芸部。得に何かしゃべることもなく、ただひたすら黙々と手芸にはげむというだけの部だったが、意外に部員は多く、十五人はいた。部活動の時間はおしゃべり一つ聞こえてこないが、休憩時間になるとかなりみんなでぺちゃくちゃおしゃべりしていた。

「さなちゃんさぁ、最近なんだか、男物のハンカチばっか作ってない?」

「えー、そうですかー?」

 二年生の先輩ににやにやしながら声をかけられた。

「それ、好きな人に作ってんの?」

「なっ……!」

 正直、自分でもなんで男物ばっか作ってるのかわかんないけど。

「いいのよ、それが青春というもの!」

 突然ほかの先輩も入ってきて驚いた。

「私の青春はきっとこのまま灰色だよー」

 さらにまた一人、先輩が入ってくる。

 みんな、恋の話大好きだなー、と心の中で笑った。

 やっと部活が終わり、やっと完成したブルーの男物のハンカチを自分で眺めてみた。なかなかよくできている。

 職員室前を通りながら、すれ違う先生方に挨拶をして、玄関へ向かう。いつも通り、もう少しで五時だ。

 玄関から出ると、外は夕陽に赤く染まっていて、なかなか幻想的だった。

「せっかくだから、ちょっと別の道から冒険してみよっと」

 独り言を言って、いつもとは違う、細い道へ入って行った。こうやって冒険するのは、昔っから大好きだった。なんだか新しい世界に来ているみたいで、おもしろい。

 細い道は進むにつれてなんだか植物や木が多くなってきて、薄暗くなってきた。大丈夫かしら、と少し心配しながらも、こういう感じだからこそ冒険心をくすぐられる、と私はどんどん進んだ。すると、突然視界が開けた。

「うゎっ……」

 転んだ。

 今日もまた転んだ。朝転んでなかったから、ラッキーだったけど。

「まったく、どうして君はそういつもいつも転ぶんだ」

 上から聞き慣れた声が聞こえた後、突然目の前に手を差し出された。

「森沢さん!」

 その手につかまりながら、私は立ち上がった。

「なんでここに?」

聞きながら、広場を見回した。何本もの木が広場を囲んでいて、芝生が生えている。花も生えているが、ベンチや遊具といったものはなくて、どうやら公園ではないようだ。

「それはこっちの台詞だ。なぜここにいる?」

 森沢くんはメガネを直しながら聞き返してきた。

「いや、私はいつもとは違う道に行ってみようかなって、来たら、こっちに来ちゃったんですよ。何か問題でもっ?」

 私がツンと答えると、森沢さんはいや……と答えながら、うつむいた。

「ここは、僕が幼い頃よく来ていた場所だ。友達とよくここで遊んだ。今はもう、ここの広場には誰も来ないようになったが。別の新しい広い公園ができたから、殺風景なここには用がなくなったんだろう」

 ハハハ、と彼は笑った。

「なんだかここは、心がとても落ち着く。一人で勉強するのにも向いている」

 へぇ、と私はもう一度見回してみた。夕陽がちょうどよく当たって、不思議の国に来たようだ。

「毎日、ここに来てるんですか?」

 ぶっきらぼうに聞いてみた。感傷に浸っている森沢さんなんて初めて見たので、なんだかぎこちない。

「あぁ。最近はよくここに来ている」

「そっか……」

「君は、もう帰るのか?」

 えっ、と一瞬言い、私は首を縦に振った。

「そうか。じゃあ、気を付けて帰れ。あと、僕がここに来ていることは、僕たちだけの秘密だ。わかったな?」

 こくりとうなずき、走ってその場を去った。

 「秘密」……。それがなんだか、蜜よりも甘い言葉に聞こえた。なぜこんなにもドキドキしているのだろう?

 家に帰り、自分の部屋に戻ってもまだドキドキしている。きっと、あそこから家まで、猛スピードで走って来たからだろう。今日は夕食と入浴が終わったら、おやすみ。


 それからというもの、私は何度でもその場所に行った。森沢さんがそこにいるっていうことは、いつでも数学を聞けるってことじゃない。九月中に、長野さんが言っていたような気がする。「あいつは数学が得意なんだ」……それならちょうど良い。数学を教えてもらえばいいんだ。

「森沢さん」

 今日も広場に入り、彼の名前を呼んだ。

「今日も来たのか。僕はゆっくり一人で勉強していたい」

「まぁまぁそんなこと言わないで。今日は、ここ教えてください」

「まったく、君は授業と先生をなんだと思っているんだ。先生に聞けばいいだろう」

 呆れ声でそう言いながらも、先生よりもわかりやすく、しっかり勉強を教えてくれる。そんな彼に私はすっかり甘えていた。

 やっと今日習ったところを理解して、私が礼を言いながら荷物をまとめていたときだった。

「本当に、まったく。君のせいで疲れてしまった。僕はいいが、君はもっと先生と交流するべきだ。そんなんじゃ、二年生になって内申点があまり望ましいものとはいえないようになってしまうぞ。それじゃあ、もう今日は帰れ。日も大分暮れてきた」

 そっか……。私は納得してうなずいた。

「ありがとうございました。これ、お礼に」

 そう言いながら渡したのは、九月の終わりごろ出来上がった、ハンカチだった。

「これは、君の手作りか?」

「はい! 一所懸命作ったんです。あ、別に、森沢さんのために作ったわけじゃないです。あげる人がいなかったから、森沢さんに……」

 急いで付け足したが、そんなことも聞いていないように、森沢さんは私の作ったハンカチを裏返したり、表から見てみたりしていた。そんなに見られたら、もし失敗があったときに恥ずかしいじゃない!

「あの……」

「ん?」

「早くそれしまった方が」

「ん、そうだな」

 森沢さんはハンカチを丁寧に折り、制服のズボンのポケットに丁寧にしまった。

「よくできている。ありがとう」

 にこっと笑う彼を見ながら、なんだか胸がきゅんと締め付けられるように痛くなった。

「帰ります」

「気を付けて帰りなさい」

「はい……」

 なんだか森沢さんが先生みたい。

 私はゆっくり歩いて家に帰った。そして、明日からは行かないでおこう、と決めた。

 森沢さんはきっと疲れてるんだ。だからあんなこと言ったんだ。たしかに私、甘え過ぎていたかもしれない。明日からは先生に聞こう。

 みなさまには本当に感謝感謝です!

 まだ十八話目は投稿しておりませんが、すぐにでも書いて、投稿いたします!

 ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

 評価、感想、ブックマーク、してくれたら感激です! これからもこんな文才なしの私に、お付き合いください。よろしくお願いします!!

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