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Trick and treat  作者: T.S キャロル
14/22

第十四章 佐奈恵

「きゃあ!」

 やっぱり。一日一回は何かにつまづく。今日は石につまづいてしまったようだ。

 体制が取れずに、そのまま森沢さんの方へよろけてしまった。

「大丈夫か」

 低い声が上から響く。

「わーっ! ごめんなさい!」

 目をぱっと開けたら森沢さんの胸の中で、すぐに離れた。なんだか森沢さんは、とても良い香りがした。私の好きな香り。なつかしいような香り……。

「おいおい、気を付けろよー?」

 長野さんに笑われて、思わず言い返す。

「そんな、そうしょっちゅうじゃないですよー!」

「そうか? 昨日だって、こけてたじゃねえか」

「なっ……!」

 そっかぁ、思い出した……。っていうか、毎日のようにこけちゃってるじゃん。私、しっかり!

 一つ信号を渡り、街へ入った。

 森沢さんは、私がさっきこけたからか、私の方をちらっ、ちらっと心配そうに見てくる。

「森沢さん、私は、大丈夫ですからね?」

 長野さんに聞こえないように小さい声で言った。すると彼は、なんだか顔を赤くして、言った。

「すまないな。なんだか、まぁ……」

 長野さんに聞こえてしまったのか、こっちをにやにやしながら見ている。もう、なんなのよ!

 今日は少し曇り空だけど、やっぱり商店街はにぎわっている。商店街、っていうこともあるけど、今日は何か秋のお祭りをしているようだ。人ごみって苦手だ。迷子になりそうで……。そんなことを考えてると、必ずと言っていいほど、迷子になっちゃう。

「あ、あそこの店だよ」

 長野さんの声。全くどこの店を指しているかわかんない。

「わっ!」

 誰かにくつを踏まれて、急いで靴を履き直していると、二人の声も、姿も見えなくなってしまった。

 どうしよう、迷子だ。

 どうすることもできずに、人ごみに流されながらも、一緒懸命二人を探していた。商店街は結構広いので、なかなか二人を見つけることはできない。それに、この人ごみ、きっと夜遅くまで退かない。すると、突然手を掴まれた。そしてすぐに、森沢さんの顔が見えた。

「森沢さん!」

「まったく、迷子になるなんて、君は子猫か」

 あきれた顔。

「ごめんなさい……」

 素直に謝る。

 あれ、森沢君って、どこかなつかしい感じ。こう、何かとても惹かれるものがある……って、こんなときに何考えてるんだろう。

「心配したじゃないか。君は時間に遅れることだけでなく、何かにつまづいたり、迷子になったりするのも得意なのか」

 なんてひどい言いよう! こんな奴、絶対惹かれるわけないじゃん。どうかしてる。

「まったく、ほんとうにお騒がせで厄介な猫だ。さあ行こう」

 誰がお騒がせで厄介だって? そこまで言われたことなんてないので、結構傷ついた。

「長野さんは?」

 少し乱暴に聞いた。

「僕もわからない。それに彼は、はぐれたらはぐれたで、お前はさな……福山さんを探して二人でまわれ、と言った」

 まったく、何考えてんだろ、長野さんは。こんな奴と二人きりなんてやだよ……。

「行こうか。君は僕の腕につかまってるといい。そうすれば迷子になることもないだろう?」

 そう言われても私がふてくされて腕をつかまないので、森沢さんは私の左手をさっと握った。

「ちょっ、ちょっ、まっ、てよっ!」

「ん? すまないが、日本語を使ってくれないか?」

 ひどい! 普通男子というのは、女子の手など握らない。なのに、妙に堅苦しいこの男は、何を考えているのかさっぱりだ!

「別に、手なんて繋がなくてもいいじゃないですか……」

 語尾が小さくなる。私たちがその場にずっと止まったままなので、迷惑そうな視線をかなり感じる。ふむ……としばらく考える森沢さんに、私は言った。

「もういいですよ! さっ、行きましょう!」

 ほんとやになっちゃう。始めなんであんなちょっとした憧れを抱いたのか、不思議なくらいだ。

 私たちはそのまま、偶然あった喫茶店に入った。

 そこで温かいココアと、ショートケーキを頼むと、一時間くらいしか経っていないのに疲れたので黙り込んだ。

「おい」

「なんですか」

 話しかけられたから返事をしたのに、森沢さんはそれっきり何かを考え込んでしまう。なんだかあきれてしまった。

「もう、何もないなら話しかけないで下さい」

「すまん」

 少ししゅんとする森沢さん。なんだか悪かったかな、と思いながら、お水を飲んだ。

 なんだか森沢さんを見ていると、なつかしい気がする。初対面だったはずなのに。ふと森沢さんと目が合った。

「どうかしたのか。僕の顔に何かついてるのか」

「別にっ」

 なんだか決まり悪くなって目をそらした。その時ココアとショートケーキがきたので、ちょうど良い、とココアの一口飲んだ。……熱い。猫舌なのに、無理しちゃったかな。


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