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盲目的な、愛を


 貴方のことが、好きです。



 私は、この場所から動けません。生まれた時からそう決められているのです。すぐそこを悠々と飛ぶ鳥や、賑やかに駆けていく子どもたちがすごく羨ましくて仕方がありませんでした。

 しかし、寂しいというわけではありません。私の周りには似た境遇の子が多くいます。隣のスミレもその一人。私なんかよりもずっと綺麗な子です。私達二人はいつもお話をしたり、笑いあったり……さしずめ親友とでも言ったところでしょうか。ですから、寂しくはありません。周りの大人たちも優しいですしね。

 動くことがままならない私の習慣と言えば、ここからすぐそこの道を眺めることです。コンクリートの道を歩く人たちは十人十色、見ていて飽きません。時には、スミレと一緒にあの人はどんな人なのか、なんて予想……というよりも想像して遊んでいました。

 そんな折、貴方が現れたのです。

 私がはじめてみた貴方は詰襟を着崩して、やけに軽そうなカバンを持っていました。正直、取るに足らない普通の人の一人として思っていました。けれど、貴方の友人でしょうか、彼が隣に来て話して、そして貴方が笑った時、私の世界は変わったのです。

 私の色彩の欠いたこの世界。灰色の中に潜みこむ私という、小さな世界を変えていただいたのです。

 花が――――開いたのかと思いました。

 私は白い地味な花にしかなれないのでしょうが、貴方はまるで夏の太陽に負けずに咲く向日葵という花のようでした。

 それ以来、貴方が毎日この路を通るのを見るのが楽しみになったのです。

 毎日、毎日、雨の日も、風の日も。

 私は貴方の表情の一つ一つを刻みつけたくて、じっと見つめさせていただいているのです。だからこそ、貴方がいつも東の方向から来るのが何よりの救いです。

 友人と大笑いをしながら帰っていたり、一人でお菓子を頬張りながら歩いていたり、夕方に音楽を聴きながらうつむいている姿へも、ずっとずっとここから視線を貴方へ送り続けているのです。

 あぁ、だけど、私は貴方に話しかけることができない。

 私は貴方の肩に手を置くこともできない。

 会話できない、慰められない、歌えない、一緒に歩けない、囁けない、笑いかけられない、共に泣けない、星を見れない。


 隣に、いれない。


 だって私は貴方にふさわしくないから。貴方の恋人になろうなどと言うのは、はなはだオカシイことで、気狂いとしか思えなくて。周りの仲間も、そんなことになろうならば疎外するしかないだろう、なんて言うから。

 だから私は今日も貴方を見つめる。

 あぁ、私を真上から照らす太陽よ、焼き焦がしてください。せめて煙だけでもあの人の隣に沿わせたいのです。

 隣のスミレは、いつも口うるさく、どうして自分と似たような人にしないの? などと言ってはいますが、私は貴方以外に目を奪われることはありません。

 大空を飛ぶ鳥だろうと、鮮やかな色彩の花だろうと、すべては貴方にかなうはずなどありません。

 スミレはふらふらと風に揺れるように私をわらいます。どうせ叶いやしないのに! あんたみたいな地味なのが彼に目を付けてもらえるわけないでしょう?! 確かにそうかもしれません。私は地味で小さな存在、スミレの方がよほど美しい。

 けれど、見てもらえなくとも、私は貴方を見つめています。

 貴方の幸せを願っています。貴方のために祈っています。


 しかし、少しばかりの我儘ぐらい、許してくれてもよさそうなのですが……ね。


 例えば、少しでもこちらへ目線を向けてくれるだけでもいいのです。そして笑っていただければ、それで、私は、満足。

 だからこそ、今のこの状況が信じられません。

 貴方が、貴方が近くで笑っているこの状況が。

「なぁなぁ、これ何か分かるかー?」

 そう言って笑う貴方。分かります、分かります。ナズナです、ナズナです! 私はそう叫びたいのだけれど、声に出せません。

「そういえば、それ食べれるんだぜ?」

 貴方の後ろから声がかかります。きっとお友達なのでしょう。ゆらりゆらりと私は揺れます。すると、どうしようもないことが起ころうとしているのが分かってしまいました。貴方のお友達には声がある。なのにどうして、その声で叫ばないのでしょうか?!

 伝えたいのに、伝えられない――――

 ナズナのことなんてどうでもいいのです。


 貴方の後ろから、猛スピードの自転車が――――


 急ブレーキ。

 耳をつんざくような音。

 衝突音。

 叫び声。

 苦しむ声。

 それは。

 貴方の――――




 しばらく貴方はこの道を歩くことはありませんでした。

 私が久しぶりに見た貴方は、額に大きなガーゼ、そして右足を白い包帯で巻かれ、松葉づえをつく、なんとも痛々しい姿でした。

 太陽が眩しいのか、目を細めていて、もうすぐ皐月なので色が汚くなってきた私はこれはもう貴方に見られたくないと、しわがれた体をかがめるのです。

「あー、見つけた」

 貴方が私に向かって微笑みます。いつもの明るくて、輝いているものではなく、暗くて淀んだ、目。

「雑草なんかに構うから、怪我しちまったんだよな。大会があるっていうのにさー、本当マジで……」

 私の真上に影ができました。影はどんどん大きくなっていきます。その正体は貴方の靴。

「ムカつく」

 そうですよね、私みたいな雑草のせいで貴方は大切な大会にでられない。ならば私は私自身で償うべきなのでしょう。自らの力で動けず、思考するだけの存在である私は自ら捌けない。しかし、当の本人である貴方が捌いてくれると言うのなら、それは本望です。

 だって、

 私は、

 貴方のことが――――



 ぐしゃ。







 ナズナの花言葉は、「すべてを捧げます」

pixivの内の非公式企画、ゲリコンに応募したもの。

お題の「恋愛」「SF」「ファンタジー」の中から「恋愛」を選ばせていただきました。

一方通行ですけどね。

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