友人からのメール
勿論、小説であります。
楽しみ方は人それぞれですが、冷笑しつつ、嘘か本当か分からぬ事を語る少年を思いつつ読むとなかなかにいやらしくて楽しいです。
「僕はこの頃、君の心に生まれた僕という存在を殺す手段について考えているんだが、どうにも上手くいかない。君は僕のことを精神病院の患者かなにかのように考え、こうした僕の思いさえも僕の異常さというカテゴリーに入れてしまうのだろう。僕は君にピストルを贈る、けど、君はそれを飾り棚の中に入れる。僕の思い出と共に、僕の言葉と共に。僕は君の心に生まれた僕を殺したい。僕はどうにかして君の心に生まれた僕を殺したいんだ」
「先日、僕が君に聞いた『ペンギンと僕ならどっちが好きか』という質問と、『ペンギン』と簡潔に答えてくれた友情篤い君の解答とに関して。君が僕のことをペンギンだと思ってくれるのならペンギンになれるのだけれど、君は思ってはくれないだろうし、思ってくれても、君はペンギンを嫌いになるだけだろう。これから先の弁明は会計士に任せようと思う」
「君はどうして、僕に微笑みかけるのだろう。僕には君の方が狂っているように思う。狂人が狂人と判定する。ろくでもない喜劇」
「君を想いながら、水銀を弄ぶ夜には飽きました」
「気遣ってくれてありがたいけれども、素手で触れるほど馬鹿ではないよ。今夜は君の赤面を思い描いて寝ます。おやすみ」
「世界が皆反対しても、君はただ一人僕を味方する。世界が皆賛成しても、君はただ一人僕の敵になる。君は嘆くが、こういう悪癖をやめない限り僕は君が大好きだ」
「バスの中、隣に座った女子高生がハイデガーを読んでいた。ああして人間は堕落する」
「僕が愛するほどには君は愛していないし、僕が憎むほどには君は憎んじゃあいない」
「僕には君が分からない。嫌う癖に僕を気遣うのは何故なんだろう? ごめんなさい、少し気が滅入っていた。ありがとう、愛してるよ。お世辞程度の愛だけど」
「最近、やっと君の中の僕と僕とが重なってきたね。嬉しいことだけど、逃げ出したい僕もいる。もし嫌じゃなければ、僕を逃がさないで欲しい。鎖ばかりは勘弁だけれども」
「今日告白された。彼女は僕の何を知っているのだろう? 訊ねると、理解するために、なんて返ってきた。ペテンだとしか思えない。僕は彼女なんかに理解される値打ちもないくらい醜悪だし、僕は彼女なんかが触れることは出来ないほどに崇高だ。断らせていただいた。僕にも意志はあるのだから、それを行使して何が悪いのだろうか」
「たしかに言い訳じみている。教えてくれてありがとうございます。けど、僕は何に躊躇っているのだろう。君が女なら一直線なんだけれども」
「都市に蔓延する愛情に戸惑ってしまう」
「映画、見に行きました。二作も見ました。一作目は、恋する女の子が、好きな男の子に素直になれず、突き放すのだけれど、男の子はそんな女の子に優しく接する。紆余曲折。キス。要約が下手なのは分かる。男と女、紆余曲折、キス、で片付けてしまえるのに。二作目は、愛する人に先立たれてしまった孤独な老人。喫茶店を営む彼は訪れる客とイメージを共有する。つまらなくはなかった」
「競争主義者は誰と競争しているのだろう。ラッセル? 僕はどちらかといえばアランとコーヒーを飲みたい。仲良くなったら、君も連れていってあげるからね」
「可愛い猫がいました。写真を送ります(桜の木の下で微睡む黒猫の写真)」
「雨に唄えばを久しぶりに見直してみた。前回見た時は怒りが沸いたけれど、今では涙しか溢れない。歳を取ったのだろうか。まだ切り捨てで10歳だというのに」
「君が気に入ってくれた、『切り捨てで10歳』という科白。母に言ったら『なら、私は切り捨てで0歳だね』と返した。数学的に正しいかは分からないけれど僕も気に入った」
「今日は何の日か知ってる?」
「集計結果(8時52分現在)。
バレンタインデー:3
チョコが欲しいの?:12
聖ヴァレンティヌスが処刑された日:4
アル・カポネが没落を始めた日:2
知らん:1(君)
感想:君にはユーモアが無い」
「笑ってる場合じゃないでしょう。どうか助けてくれないかな。机の上にチョコの山が作られてる」
「登れって。もう、本当に馬鹿。死んじゃえ」
「馬鹿なことはするものじゃない。まさか、たった一日で出回るとは思わなかったし、否定したのにチョコが欲しいだなんて考えるほど彼女らの知性が堕落しているとは思わなかった。一人、笑いながらペットボトルのお茶をくれた子だけが味方だ」
「僕は、チョコが、嫌いなんだ!
ゴディバ夫人さえも嫌いになってきた。はなはだ遺憾だ」
「つい昨日、お前は最近世間擦れしてきたなと言われた。実に喜ばしいことだ」
「堕落というのとは違うよ。堕落というのは、お仕着せの思想で満足することだ。僕は今、着ていた服を脱ぎ捨て自分で物を考え始めている。それが何故堕落というのか」
「君の心に生まれた僕がやっと死んでくれた。僕は
君を愛している。君も僕が嫌いじゃない」
「僕がペンギンになれたら、君に飛び方を教えてあげたい。君は蛇になって、お返しとして僕に歩き方を教えて欲しい」
「春休みだね。僕に会えない悲しさに、自分を慰めたりしているかい?」
「ごめん。昨日のメールは酔っていた。まさかマグカップに日本酒を注いでる人間がいるとは思わなかった。僕は別に君の性生活に興味はないのであしからず」
「酔った時に本性が出るという説に賛同する気持ちはない。お願いだから許して」
「昨日、町をふらついていたら先生に会った。新学期からはまた同じクラスになるらしい。よろしくね」
「いや、榊先生」
「二年になりました。今年度の抱負は? ちなみに僕は『息をする』です。難しいけど頑張ろうと思う」
「花見に誘われたので、明日は菊の花を持っていこう(無季律俳句)」
「何故怒られなくちゃならないのだろう。菊の花を葬式のイメージで受け取るのは構わないが、それを超越するのが我々のすべきことじゃないだろうか」
「勿論ロイヤル・ウィーという奴です」
「遠足。僕ら一緒に腕でも組みながら尾道を歩こう」
「だからあれは酔っ払いの誓言だってば!」
「今目の前に、猫の死体がある。轢死なのだろうか、頭は潰れ、鴉か鳩かがつまんだのか、腸が伸びていた。手を合わせ、南無阿弥陀と呟いた所で虚しくなって、やめた」
「S…公園」
「何も言わずに帰ってごめん。あの猫も、これ以上自分の死を見つめられずに済み喜んでいるだろうと思う。ありがとう。本当にありがとう」
「ふと思う。僕が君を思うほど君は僕を思っちゃいない。それでよかったのにそれだけじゃ足らなくなった」
「分からないかな。僕は君を愛してしまった。お世辞でもないけど、肉体的なそれじゃないから安心して」
「水銀。君に似て不思議な存在。冷たいのか熱いのか、一目見ただけでは分からない。触れてみたいものだ」
「いくらかしたら梅雨も空けるね。また嫌な季節が来る。日焼けなんかしてしまったら僕の美が損なわれるじゃあないか」
「冗談冗談」
「冗談だって」
「しつこい男は嫌われるよ」
「はいはい、ナルシストですよ。池が無いので死ねないけれども」
「夕立、図書館」
「愛してるよ。なんだったら傘は一本で構わない」
「まさか本当に一本だけとは思わなかったし、僕の方に寄せて風邪を引くとも思わなかった」
「礼には及ばない。自分のせいで風邪を引いた人間を放って本を読めるほどの悪人にはなれない」
「花火大会に誘われたので来なさい」
「家族。嫌なら構わない。別に、君がいなくとも花火は上がるのだし」
「父さんが君を気に入ったらしいので家に来てくれないかな。嫌なら構わない。こちらの方は照れ隠しではなく心からのお願いだ。我が家の恥部を見られるようで恥ずかしい」
「私服が似合わないという君の言葉を聞いて、返事。くそったれ」
「君は何をしでかしたか知らないんだ。父さんに気に入られたんだぞ。ああもう、今日明日には菓子折り持って君の家に向かうだろうね」
「だろう。あの人は僕よりもおかしい」
「水銀を見つめて君を想っていたらあまりにも暑くて堪らず止めた。早く秋になれ」
「さあ、どうだろう」
「一体、僕らはどこへ向かうのだろう? 自分を百万回焼き尽くす兵器の上で微睡んでいる。夜中、僕は泣きはらす。世界が燃え尽きた後で、それでも僕は君を愛しているだろうし、世界を愛しているだろう。僕は人を憎むのが苦手だ。彼らのような考えは僕にとってはなはだ辛い」
「君が女なら、ねぇ。全く、神様というのはいないよ」
「来世では猫になって君に抱かれたいのだけれど、ペンギンになって氷の海を泳ぎたくもある」
「サボテンに水をやらないでいたのにまだ枯れない。意地らしいが多分明日も水やりを忘れるだろう。おやすみなさい」
「誕生日プレゼントありがとう。猫耳なんて珍しい物を貰い、ついつい嬉しくて着けながら学校を歩き回っている。君からの贈り物だということと、僕らが愛し合っていることはちゃんと説明しておいたから」
「別に。僕は構わないよ。同性愛なんてのはソドムとゴモラから続くものだし、マルクス主義よりかは伝統がある」
「眠い」
「やだ。寝ない。寂しい」
「そういえば、たしか昔君に伝えたろう。ハイデガーを読む女子高生。今では手帳に何か書き込んでいる。無礼とは知りながら覗き込んだら小説を書いていた。人間も捨てたものじゃない」
「知らなかった? 僕は天使なんだよ。今は地上に降りてきているが、天上に昇れば神の玉座の横に立つほど高位の霊魂だよ」
「木枯らしというのはどうしてあんなにも寂しいのだろう? コートに首をすくめ、町を歩くのは何かつまらない」
「クリスマスの気分を盛り上げる町の喧騒。害にはならないが気にくわない。イルミネーションは醜い」
「秋は好きだが冬は嫌いだ。猫がいなくなる。嫌いだ、嫌いだ」
「ホワイトクリスマス(ただし穢れている)」
「君は大層楽しいクリスマスを送ったらしいね。資本主義のケーキは美味しかった?」
「別に。イメージが嫌いなだけだ」
「水銀を見つめる。凍えた手に水銀は冷たかろう。君のよう。僕を魅惑して離さない。今年も一年、君に縛りつけられていた。それさえも嬉しいのだから、僕にはマゾヒズム的な傾向があるのかもしれない」
「去年と言おうか今年と言おうか。今年と言おうか来年と言おうか。よろしく。僕は来年も君を愛しているし、君は僕を愛さない。そうして世界は変わらず君に微笑みかけるだろう」