1;新しい仕事
19歳の春、私は夫を亡くした。死ぬと分かっていて、それでも愛さずにはいられない人だった。
よく晴れた、気持ちのいい日に、彼は旅立った。
あれから2年。私はまだ、彼の家に住んでいた。
もともと、身よりがなく、一人で生活していた私を、彼が招きいれてくれた家だった。彼の家族は新しい、いい人が見つかるまで、住まうことを希望してくれたのだった。
彼の家族は、4人と私。仲の良い両親と、仲の良い男兄弟二人。父の晴彦。母の都。高校生の翔太。小学生の朗。亡くなった彼の名は草太。
私の、大好きな家族。時々、胸を痛くさせるほど、愛しい人たち。
「美晴、いる?」
翔太が帰るなり、すぐに私の部屋へ来た。学生服の翔太は、出会ったばかりの頃の彼を思いださせて、いつもまぶしい。
「なぁに?」
「これ、見てみて」
そう言って差し出したのは一枚の紙きれだった。
「求人?」
そこには、アルバイトの求人広告が載っていた。
私は、彼を亡くしてからはずっと定職につくわけでもなく、しかしある程度の収入は切らさないように、働いていた。最近、長く続けていたコンビニのアルバイトをやめたばかりで、新しい仕事を探していたのだった。
「古道具屋さん?」
「そう。たぶん、美晴にはこういう普通じゃない仕事のほうが似合うと思うんだよね」
翔太はさらりと言ったが、すこしチクリとささる。
「あ、ごめん。でも、そう思うから。もし気が向いたら、行ってみなよ」
翔太はそれだけ行って、すぐばたばたと階下へ降りて行ってしまった。
翔太の言うことは本当で、私はどのごく一般的な仕事も似つかわしくなく、借りてきたコンパニオンのようになってしまうのだった。
コンビニの仕事は気に入っていた。夜のコンビニは変なお客が多いから、楽しかった。
古道具屋、という響きに妙に惹かれた私は、明日、いってみよう、と早速決めた。