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呼吸と体温  作者: CORK
3/6

Vol.3 恋人

「それでね、あいつ本当に最悪なんだからっ。ねえ、聞いてるの」

 ヒステリックに叫ぶ彼女の声を、俺は少しうんざりしながら聞いていた。

「ああ、聞いてる聞いてる」

 投げやりにそう答える。彼女が熱くなって話しているのは元カレの悪口。俺は会ったこともない相手だ。そんなヤツの悪口を延々と言われたところで、俺には共感はおろか興味すら湧かない。

 というか、今現在付き合ってる彼に延々元カレの話を聞かせるというのはいかがなものか。

「いいのよ、あいつだって絶対陰であたしの悪口言ってるんだから」

 なんて薄っぺらい愛情なんだろう、と思った。



 その2日後、色々考えたがやっぱり彼女と別れた。

 理由は、あまりにも馬鹿馬鹿しいから。仮にも過去に自分が恋人として選んだその相手を、尊重出来ないばかりか憎悪の対象として考えてさえいるその浅ましさに呆れた、とも言える。

 昔の恋人のことを誰かの前で罵倒して、悪い印象を植え付けようとするその行為は、イコール過去の自分を貶める行為だと俺は思う。

 だって思わないかい? お前はそんなヤツを相手に長い時間を割いて恋愛の真似事をしてきたのかい、ってさ。

 きっと今頃、彼女は鬼の首でも取ったように俺の悪口を話していることだろう。

 新しい彼氏でも出来たら、その男にも俺に対する罵詈雑言を聞かせるのだろう。

 そう考えたら、何だか馬鹿馬鹿しくて笑えてきてしまった。

 でも俺は彼女のことを友人の誰にも話す気はなかった。

 理由? 理由かい? さっきも言っただろ。同じことを何度も言わせないでくれ。馬鹿馬鹿しくなっちまった。ただそれだけのことだ。

 彼女か俺かのどっちかが考え方を根本から変えない限り、俺たちは絶対に相容れない。

 そして俺は、彼女のために考え方を変えるつもりなどはない。

 だって俺には、彼女以上に愛している人がいるんだから。



「俺にはやっぱりお前しかいないよ」

 目の前の女性はその表情に優しげな笑みを浮かべている。

 喜んでいるのか軽くあしらわれているのかは判断がつきかねたが、俺はその笑顔が大好きだった。

 俺が本当に愛しているのは彼女だけだ。それなのに彼女なんてものを作るなんて……どうかしていた。

 自分のそんな矛盾した言動に思わず苦笑いを浮かべる。そんな俺を優しく見つめながら、彼女は言った。



「こら。親に向かってお前呼ばわりするのはやめなさいって、いつも言ってるでしょう」



「子供扱いしないでくれよ。俺は今年で小学校卒業だよ、母さん」

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