プロローグ 戦争の始まり
暗い、水に沈むように、深く深く奥へと沈んでいく。
自分は誰なんだろう、ここはどこなんだろう。目の前にあるものは闇、いや目が開いてる確信すらない。 意識は沈むほどに薄れていく、次第にさらに深い闇へ。あぁなんとなくだけど、ここで終わるんだ。
朝日が差し込んでいた。目が覚めるとそこは知らない街。私は路地裏の壁にもたれ掛かって寝ていたようだ。
名前は覚えている。グレイ・ニコラス。
手元には一つのカバン。あまりない記憶を辿る限り、このカバンは私のものなのだろう。中身を確認する。一枚の写真と大量の札束でパンパンに膨れた財布。スマホと謎の地図があった。
そろそろ起き上がろう。体に疲労が溜まっているのか、立ち上がるのには大きな力を要した。私の体力がないだけかもしれない。それもわからない。
まずは路地裏から出なければ、ここが外国なら危険なはずだ。
外にはたくさんの人がいた、金髪、茶髪、黒髪。それぞれの髪色、それぞれの顔。朝日はさっきまで暗い路地裏にいた私には刺激が強かった。視線を外し、目を薄める。
私はふらつき、足取りは傍から見れば不安そのものだっただろう。私は壁へ手をかけ、目元を擦ろうとする。そこで初めてメガネをかけているということに気づいた。私はメガネを取って目を擦る。やっと目が外の光に慣れ、私は街を見渡した。
「ここ... どこ?」
外国の街の知識はなぜか記憶があったからわかる。ある程度の記憶はあるが、この街は知らない。アメリカのようだけど、どこかヨーロッパのような雰囲気を感じる不思議な街だ。
とにかく今は私の記憶やこの街についての情報を集めなくては、私はゆっくり近くのホテルらしき建物へ歩き出した。
そういえば地図で確認したが、この街はディアンズフィールと言うところらしい。ケータイで調べたが、 表示されたのはバミューダトライアングルだった。 バミューダトライアングルは地球上から1番遠い海域のことで、これが表示されるということはどうやらケータイは使い物にならないらしい。
ホテルの中は至って普通、少し高いホテルとなんら変わりはなかった。
「なんか食べ物買いに行こ」
そう言ってさっきまで寝転がっていたベッドから起き上がった。その時だったポケットに違和感を覚えた。
私はスカートのポケットに手を入れ中を探った。
「コレって指輪?金でできてるのかな?」
私のポケットから出てきたのはボロボロの黄金の指輪だった。これは私のものだったのだろうか。いや、 でも私の記憶では私はまだ大学生になったばかりのはず。大学生がこんな高価な指輪を買えるわけがない……いや、でもこんな札束を持ち歩くような人物だったのかもしれないし、持ってても何ら不思議ではないかもしれない。
そういえば少しずつ記憶が安定してきた。 私の名前はグレイ、年齢は19で、国立桜坂大学の生徒。でも、だとしたらなんで私はここにいるの?記憶を思い出そうとすると頭に激痛が走る。まだまだ謎だらけだ。
「あー、なんか食欲無くした」
こうして私はまたベッドへ体を沈めるのであった。
9月19日ディアンズフィールのとある山にて。
2人の男が山の中にいた。1人は手にアタッシュケースを持っている。
「まさか本当にあるなんて、ここが儀式の為に作られた街ですか」
淡い紫髪の男は、もう1人の白髪の老人へ話しかける。もう1人はアタッシュケースの中身をいじっていた。
「しかし魔界術局もここまでのことをやるとは」
アタッシュケースをいじりながらも老人はぶつぶつと独り言を呟く。アタッシュケースには赤い宝石や緑の箱、他にも黄金の盃が入っている。
「ディアンズフィール……魔界戦争という儀式で確か昔の人物が13人の人間を悪魔と契約させ、殺し合わせて残った悪魔を生贄に願いをなんでも一つ叶える為に作ったけど一度目の儀式が想定以上の被害を出したから、今度からそのような被害を出さない為に作り出された国でしたよね」
紫髪の男は山から街を眺めていた。人はこんなに楽しく暮らしているのに、外の世界のことは誰1人として知らない。現代国のように発展しているというのに、歴史は皆無。まさに皮肉のような国だ。
「よく勉強しているなヘルス。その通りだ。魔界術局は自分たちの願いを叶えるため200年ぶりにこの儀式をまた始めるのだ」
老人がアタッシュケースから離れ、街を眺める男の肩に触る。
「いくぞ、術式はもうすぐ発動する。あとは依代たちがどれを召喚したか見守るだけだ」
そう言うって老人と若い男はどこかへ消える。
残されたアタッシュケースは赤い光を発していた。中の宝石が割れ、夜の空がさらに黒く染まり、その黒は浸透して消え去った。
「さて、始まるぞ魔界戦争が」




