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出会い

いつものように朝ごはんを食べようと冷蔵庫を開けた私は、いつものパンに手を伸ばすのをやめて自転車に乗ります。


さすがに飽きた。いつもとは違うパンを食べたくなったのです。


近くのコンビニに到着し、自転車を入口の目の前に停めます。


入場のチャイムとともに自動ドアが開き、私は店内に足を踏み入れます。


「あ」


と、いう声が聞こえました。


最初、私は聞き間違いだと思いました。

まさか声が聞こえるなんて、夢にも思わなかったのです。


声の方向に顔を向けると、私と同い年くらいの少女がこちらをみつめていました。


少女は私を見て、「おはよう」と笑いかけてくれます。


「うっ」


その瞬間、なぜだかはわからないけれど、私の目からは涙があふれ出てきました。


安心感なのか、恐怖心なのか、寂しさを自覚してしまったのか……

とにかく色々な感情が私に襲い掛かってきて、立っていることもできずに座り込みました。

せめてもの抵抗として声を押し殺していますが、絶対にばれていることでしょう。

私はいつぶりか分からない羞恥心でさらにパニックになります。


「えーと、大丈夫?じゃ、ないよね。えーと…」


頭上で少女の戸惑う声がしますが、今の私は絶対に顔を上げるわけにはいきません。

気を使わせてしまって申し訳ない。私はさらなる罪悪感にまた胸が重たくなります。


少女が動く気配がします。

泣いている私を放置することに決めたのでしょうか。

それならそれでありがたいことです。もう私のことなんて記憶から消してほしい。


「はい」


そんな私の思惑は外れ、少女は私に冷たい水を手渡してくれました。


「あ…り」


まだ涙のせいでうまく言葉が出ません。

というか、久々に声を出したせいで盛大に咽せてしまいます。

私はお礼もろくに言えないのでしょうか。ああもう、本当に私というやつは。


「そこに広い公園があるんだ。落ち着くまで休もう」


少女は優しく声をかけ、私の背中に手を回してさすってくれます。

どうせだれもいないだろうと入口の目の前に置いた自転車を避けさせているのも申し訳なくて。

私は力の入らない足を無理やり動かして少女の誘導に従って公園に行きました。


促されるがまま公園のベンチに座ります。

涙がとめどなく溢れて止まりません。一体私はどうしてしまったのでしょうか。


彼女は何も言わずに、まっすぐ前を向いて私の背中をさすってくれています。

背中に久々の暖かさと安心感を覚えて、どこかずっとあった緊張がなくなっていくようでした。


少し落ち着いてきた私は滲んでいる視界の中、横目で彼女を観察しました。


アッシュグレーの肩までの髪が揺れていて、少し眠たげな目で前を見据えています。

服は手首が隠れるくらいのダボダボのパーカーにジーンズというラフな格好でしたが、色合いがよく似合っていてセンスを感じました。

(かわいい子だな)

と、素直にそう思いました。


「あ、落ち着いた?大丈夫?」


私の泣き声が小さくなったことに気がついたのでしょう。

彼女は私の方を向き、笑顔で話しかけてくれます。


私がゆっくりと頷くと彼女は満足そうに頷き返し、ベンチから立ち上がって「じゃあ、これで」とその場から立ち去ろうとします。


「あ!待ってください!」


気づけば、私は大きな声で彼女を呼び止めていました。

理由は色々あるでしょうが、そんなことを考えるよりも先に、私の口は動いていました。


元の世界であれば、目の前で泣いている見ず知らずの人を介抱した後は、すぐ立ち去るのがセオリーでしょう。

私としても、すぐに立ち去ってくれる方がありがたいと言えばありがたいです。

それでも、彼女を逃すわけにはいかないと、私は縋りました。


「え、えと。なに、かな?」


彼女は戸惑うようにぎこちない笑顔を浮かべて話しかけてくれます。


「あの、えっと」


呼び止めたはいいものの、うまく言葉が出てきません。


「…………また、会いませんか?」

大分間を開けて、私はそう言いました。彼女と縁を繋ぐための、精一杯の言葉掛けでした。


彼女は少し驚いたように目を見開いた後、「いいよ」と返事をしてくれました。

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