遊園地
目が覚めると私は自分の部屋のベッドにいました。
私は確かショッピングモールで寝たはずです。
家の外に出て確認してみると、自転車もいつものところにありました。
なんとも奇妙な感覚に包まれつつも、私はとりあえず気にしないことにしていつも通り手抜きの朝食を食べ、着替えて自転車に乗りました。目的地は遊園地です。
とはいっても、そんな大きなところではありません。
地域の子どもたちが気軽に遊びに来れるような、小さな小さな遊園地です。
私はずっと、ここの観覧車に乗りたかったのです。
ここはほとんどの遊具が100円で遊べますが、観覧車だけは500円とお高くて遠慮してしまいました。
もしそうでなくても、「あれに乗りたい」「これに乗りたい」と走り回る弟に合わせて動くことが私たち家族の通例となっており、せっかちな弟が観覧車に乗りたいなどと言うはずもありません。
両親に乗りたいものを聞かれた際にも「観覧車にのりたい」と言える雰囲気ではありませんでした。
両親から直接言われたわけではありませんが、子どもながらに「長女らしく振る舞わなくてはならない」と思ったのでしょう。
いつも私は比較的短い時間で終わる安いアトラクションを指定して遊んでいました。
さて、そんな念願の観覧車に乗った私ですが、もうドキドキしっぱなしでした。
手に汗握るとはこういうことを言うのでしょうか。
興奮で体温が高くなり、じんわりと体が汗ばむのを感じます。
観覧車から見える景色は思っているよりも高く、遠くの町まで簡単に見渡せてしまいます。
私は観覧車の中からそっと外の風景を眺め、自分の家や学校を探そうとしました。
徐々に小さくなって行く町を凝視してしっかり見ようとすると、私の高校の赤い体育館が目に入ります。
「あった!」
思わず大きな声を出してしまいます。
体育館が見つかった側の席に移動し、お行儀悪く足を座席に乗せて窓ガラスに引っ付きます。
学校の体育館を目印に通学路を辿っていき、私は無事に自分の家を発見することができました。
(小さい……)
私はガラス越しに指で家をつまみます。
こんなに小さな家たちが私よりもずっと大きいことが、なんだか信じられませんでした。
「あ、そうだ。」
とりあえず、記念にスマホで写真を撮ろうと、カメラを構えます。
ですが、グラグラと揺れて撮りづらく、結局もたもたしている間に私の家は他の家に隠れて見えなくなってしまいました。
残念に思えましたが私は諦めません。
撮れないならば何周も乗ればいいのです。
だって、順番待ちもないのですから。
私は一番下まで降りた観覧車を降りることなく、そのままもう一周乗ることにしました。
何度も挑戦した甲斐があって、私は見事、観覧車から見つけた私の家を写真におさめることに成功します。
他の人からすればよくわからない写真でも、私にとっては最高に大切な1枚を撮ることができて、私の胸は達成感に満たされました。
大事に撮った写真を、観覧車から降りて近くのベンチに座って見返します。
「…ふふっ」
私は思っているよりも狭い世界で生きているのかもしれません。