学校
比較的早い時間に起きることに成功した私は、支度を済ませて自転車に乗り、高校に行くことにしました。
いつもの通学路を自転車で走ります。
(静かだなぁ)
いつも挨拶してくれるおじいさんも、噂話をしているおばさんたちも、ゴミ収集の作業員さんも、吠えてくる犬だって、いません。
いつも聞こえてくる声の代わりに、いつもならかき消されているであろうタイヤの動く音や葉が風で揺らめく音が鮮明に聞こえます。
いつもと同じ町のはずなのに、どこか知らない町のようにも感じました。
友達と待ち合わせしている交差点も止まることなく通り過ぎ、いつもの駐輪場に自転車を停めます。
普段は隣の自転車と干渉をしてしまって停めづらかった自転車も、楽々停めることができました。
静かすぎる廊下を歩き、とりあえず校内を一周します。
一応、一つ一つの教室の中や職員室を覗いてみますが、当たり前に誰もいません。
(誰もいない学校って、案外怖くないかも)
もっとおどろおどろしい感じになっているのかと思いましたが意外にもそんなことは無かったようです。
まあ、夜に来いと言われれば確実に首を横に振りますが。
「はーい、授業を始めますよー」
とりあえず一周を終えた私は自分の所属しているクラスの教室に入り、教卓の前に立って先生ごっこをしてみます。
当然返事はなくなんだか空しくなってしまったため、今度はチョークを持って黒板に思い切り落書きをすることにしました。
(黒板アートの人は、なんか、こう。いい感じに色を組み合わせてこすったりしてたんだけど……)
動画で見ると簡単そうでも、実際にやってみると結構難しいことはよくあることです。
かなりの時間をかけて絵を完成させ、さてどうだろうかと黒板を遠くから眺めてみると、なんともバランスの悪いヘタクソな絵が黒板に描かれていました。
くはっと声を出して思わず笑ってしまいます。
達成感もあり、ヘタクソな絵がなんだか愛おしく見えたので、この絵は消さずにこのまま残しておくことにしました。
教室を後にした私が次に向かったのは図書館でした。
読みたかった本を片っ端から物色します。
ベストセラーでも貸し出し中の心配なんて一切ありません。
他の子に表紙を見られるのが嫌で読めていなかったラノベも、心置きなく読むことができます。
私は読みたかった本を机の上に積み上げていきます。
あれもこれもと、気づけば両手に抱えきれないほどの本の冊数になっていました。
私は本を読むのは速い方ですが、さすがにこの量は読み切れませんし、家に持ち帰るのも重すぎます。
冷静になって、とりあえず今日は最近発売されたばかりで常時貸し出し中だった本、1冊だけを読むことにしました。
読んだ本の感想を述べろと言われたら、まあ、普通に面白かったです。
その後グラウンドに行き、芝生の上を思い切り走りました。
息がぜいぜい切れて、汗がだくだくと流れます。
いつも目立つのは運動神経のいい子たちの役割で、普通に位置する私は『目立たない程度』にしか走れませんでした。でも今は好きなだけ転んでも、全速力でみっともなく走っても笑われることはありません。
満足するまで走りまくった私は、芝生の上に倒れこみました。
口の中はなんだか血の味がするし、足はがくがくと震えます。
鼓動がどくどくと激しく脈をうち、酸素を体中に届けようとしているのを助けるように、私は思い切り深呼吸をしました。
目を開けると、霞んでいる視界に空が飛び込んで来ました。
青く澄み渡る空に、一筋の雲がゆっくりと流れていました。