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桜庭メル、準備を整える

 「皆さんこんばんは、異世界系ストリーマーの桜庭メルで~す」


 無事に狩猟者試験に合格した日の夜。メルは前日と同じように、滞在している宿屋の部屋で配信を開始した。


 『メルちゃんこんばんは!!』『こんばんは~』『こんばんは、また逢えたね』『待ってた』

 「今日もまた昨日みたいに今日あったことを話していこうと思うんですけど~……その前にメル、気付いたことがあるんです」

 『何?』『教えて』『勿体ぶるなよ』『いや勿体ぶってはないだろ』

 「なんでかは分からないんですけど、ペスカトピアに来てからスマホの充電が減ってないみたいなんですよ」

 『なんで?』『そんなことある?』

 「何なら昨日最初に見た時は残り充電72%だったのに今は残り100%なので、減ってないどころか増えてます」

 『なんで???』『それは流石におかしいだろ』『表示バグとかじゃなくて?』

 「分からないです、表示バグかも……でももしホントに充電が減らなくなったんだとしたら不思議ですよね~」

 『そうだね』『そうだね』『なんでだろうね』

 「……っていうことで、不思議だねってお話でした」

 『何だその終わり方』『ストリーマーがあんまり冒頭からオチの無い話するなよ』『メルちゃんのお話いつもとっても面白いよ!!』『良くない全肯定ファンがいるなぁ』


 冒頭の雑談を終えたメルは、備え付けの机の上から紙袋を手に取った。


 「今日もまたペスカトピアの食べ物を紹介しようと思って、食堂で買ってきたんです」

 『またズーロさんとかいう人に奢ってもらったの?』

 「今日はちゃんと自分で買いましたぁ~!」


 紙袋の中から出てきたのは、ソフトボールほどの大きさの果物だった。

 見た目はみかんやレモンなどの柑橘類に似ている。


 『果物?』『みかん?』『美味しそう』『みかんすき^^』『は?マンダリンでしょ?』

 「この果物は、なんて言ったかな……アマダイト?だったと思います。みかんとかオレンジみたいに皮を剥いて食べるそうなので、早速食べてみようと思います!」


 メルは爪を使ってアマダイトの皮を剥き始める。アマダイトの皮はみかんのそれよりも少し硬かった。


 「中もほとんどオレンジと同じですね」

 『オレンジじゃなくてマンダリンでしょ?』『さっきから異様にマンダリンって呼び方推してくる奴何なんだよ』

 「それじゃあいただきま~す」


 メルはアマダイトの果肉を1房口に含んだ。


 「んっ!かなり美味しいです。ちょっとレモンの風味がするオレンジみたいな感じかな?」

 『それは確かに美味そう』『味気になる』『お取り寄せできないかな』『運送業者に無茶言うのやめろ』

 「メルこれかなり好きです。結構お手頃価格だったので、毎日食べてもいいかも」


 アマダイトの値段は日本円に換算して1個100円ほど。

 毎日の食後のデザートとしてはかなり財布に優しい価格設定だ。


 「美味しかったぁ……ところで皆さんに見せたいものがあるんです」

 『唐突』『話題の切り替えヘタクソか?』『メルちゃんのお話はジェットコースターみたいで予想がつかなくて楽しいね!!』『全肯定ファン褒めるの上手くて草』

 「じゃ~ん。見てくださいこれ~」


 メルがカメラに向かって掲げたのは、運転免許証ほどの大きさのカードだった。


 『何それ?』『運転免許?』『ペスカトピアって車あるの?』

 「これはですね~、狩猟者証っていう狩猟者の身分証なんです。メル、無事に試験に合格して、狩猟者になれました~、パチパチパチ~」

 『おお』『すごい』『よかったじゃん』『試験って何やったの?』『筆記?』

 「試験は模擬戦でした。カミノールさんっていうメルと同い年くらいの女の子と、それからズーロさんと戦いました」

 『試験が模擬戦ってめちゃくちゃ異世界っぽいな』『メル勝った?』

 「勝ちました。カミノールさんは不意討ちで倒して、ズーロさんは関節技で倒しました」

 『あれ一気に異世界感なくなったな』『ヒールレスラーの話してる?』『異世界ならもっと剣とか魔法とか使えよ』

 「それで試験に合格してこの狩猟者証を貰った後、狩猟者をやるのに必要な道具を揃えたんです。見てください」


 メルは狩猟者証をベッドの上に置き、その隣に今日手に入れた道具を次々と並べる。


 「まずはこれです!」


 メルが道具の中から最初に手に取ってカメラに見せたのは、トランプほどの大きさの半透明のカードだった。


 「これは貯蔵札っていって、このカードの中に魔物の死体を1体だけ収納できるんです!」

 『収納ってどうやって』『カードの中に仕舞えるの?』

 「そうです、このカードの中に魔物の死体が入るんです。魔法のアイテムって感じですよね~」

 『その道具はかなり異世界っぽいね』『少なくともさっきのみかんもどきより遥かに異世界』

 「ちなみにこの貯蔵札、狩猟局から貸し出されてるものなんです。狩猟者は貯蔵札を1人10枚まで狩猟局から無料で借りられるんですよ」

 『無料はいいな』『結構高そうなのに』『狩猟局太っ腹だね』

 「まあ失くしたら当然弁償なんですけど……」


 メルは講習で聞いた貯蔵札紛失時の賠償金を思い出し、苦笑いを浮かべた。


 「明日は狩猟者になって初めて魔物を取りに行く予定なので、その時にまた配信しようと思ってま~す」

 『楽しみ』『見れるかな』『確か時差半日くらいあったよね』『じゃあメルが昼間狩りに行ったらこっちはその時夜か』『じゃあ見れるかも』『まあ俺は配信が何時だろうと絶対見れるけどな』『あっ……』

 「そして次が~……これです!」


 メルは貯蔵札をベッドの上に置くと、その隣の刃渡り30cmほどのナイフを手に取った。


 「狩猟者になった以上、魔物と戦うための武器が必要だって言われたので、ナイフを買ってきました~」

 『おお』『ナイフ?』『結構長いね』『剣とかじゃなくてナイフなんだ』『なんでナイフにしたの?』

 「ホントは武器なんて要らないかなって思ったんですよ。っていうのも未踏領域の魔物はみんな皮膚とか毛皮とかが硬くて、剣と魔法を一緒に使わないと中々切れないんですって」

 『そうなんだ?』『剣だけ上手くても狩猟者はやれないんだ』『世知辛いねぇ』

 「昨日メルが熊と戦った時みたいに、目とかを狙えば魔法が使えなくても魔物を倒せるみたいなんですけど、目を狙うんだったらそれこそ昨日みたいに木の枝でも殺せるじゃないですか。だからメルは狩猟者になっても武器は要らないかな~って」

 『木の枝で殺せるなら剣は要らないってロジックはおかしいだろ』『絶対なんか武器持ってた方がいいって』

 「やっぱり皆さんもそう思いますか?ズーロさんと局長さんも『何でもいいから1つくらい武器は持っとけ』ってすっごく言われて、それでこのナイフだけ買ったんです」

 『メルちゃんに買ってもらえたそのナイフが羨ましい!!私もメルちゃんに買ってほしい』『お前それは全肯定とはまた違うぞ』


 購入経緯を説明し終え、メルはナイフもベッドの上に戻した。

 続いてメルがカメラに見せたのは、薄ピンク色の液体が入った小さな容器だ。


 「これは傷薬で、怪我したところに塗ったり掛けたりして使うんですって。軽い傷ならこれだけですぐに治って、重症だと治りはしないけど傷口はすぐに塞がるってお店の人言ってました」

 『えめっちゃ凄いじゃん』『地球の傷薬の遥か上を行く性能』『流石異世界』

 「でもこれすっごく高いんですよ……この瓶1つでこのナイフ20本くらい買えますもん」

 『たっか』『たけーな』『でも性能考えたらそのくらいの値段でも仕方ないか……?』『少なくとも地球ならそれくらい高くても欲しいって人は滅茶苦茶いそう』

 「狩猟者の人は大体これ1つ持ってお仕事行くそうなんですけど、お高いので皆さん滅多なことでは使わないそうです。ほとんどお守り代わりだって言ってました」

 『なるほどなぁ』『まあ何かあった時にもそれがあると思うと安心だよな』

 「これを使う機会が無いのが1番ですけどね~」


 メルは傷薬もベッドに戻し、スマホのカメラを自分の顔に向けた。


 「……はい、今日買ったものはこれで全部で~す」

 『えっもう終わり!?』『収納用品とナイフしか買ってないじゃん!?』『何なら収納用品は借り物だからナイフしか買ってねぇ!?』

 「狩猟者のお仕事に慣れてきて、遠くの魔物を取りに行ったりするようになれば、もっと色々なものが必要になってくるらしいんですけど。メルはまだそこまで遠くには行かないので……」

 『いやいやいや鎧とかは!?』『武器買ったら防具もセットで揃えるもんじゃないの!?』

 「えっ?鎧って相手から攻撃された時に体を守るためのものですよね?」

 『そうだよ?』『魔物と戦うなら絶対防具必要でしょ』

 「いやいや……」


 ご冗談を、と言わんばかりにメルは右手をひらひらと振る。


 「戦う前から相手の攻撃を受けることを考える人なんていますか?」

 『普通考えるだろ!?』『逆になんで考えないんだよ!?』

 「いいですか?戦いっていうのは相手の攻撃を全部避けて自分の攻撃を全部当てれば絶対に勝てるんです。それなのに相手の攻撃を受けることを考えてる人っていうのは、その時点で気持ちがもう負けてるんですよ!」

 『なぁにを言ってるんだお前は』『昨日のズーロさんだって鎧着てただろ』『その街で鎧着てる人全員に謝ってこい』

 「それに鎧着ちゃうとこの服見えなくなっちゃうじゃないですか。それも嫌だったので鎧とかは買いませんでした」


 メルはそう言って身に着けているピンクのブラウスを軽く引っ張った。


 「メル、皆さんの前に出る時は絶対にこの服って決めてるので」

 『そういうこだわりも大事だと思うけどさぁ……』『でも絶対防具はあった方がいいって』『メルちゃんなら鎧もすっごく可愛く着こなせると思う!!』『ほら全肯定さんすら暗に鎧着た方がいいって言ってるじゃん』

 「ん~……じゃあ明日実際に狩猟者のお仕事をやってみて、鎧が必要だな~ってメルが思ったら鎧も買ってきます」

 『そうしてくれマジで』

 「という訳で明日の配信、異世界系ストリーマーが魔物倒してみた!皆さん是非見てくださいね~」

 『流れで宣伝すな』『マジで危機感持った方がいい』『でも楽しみにしてる』

 「それでは皆さんまた明日~、バイバ~イ」

 『バイバイ』『ばいば~い』『明日も絶対見るからね~!!』

読んでいただいてありがとうございます

次回は明後日更新する予定です

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