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23. 存外気に入っているんだよ

「キャスリン・リッチモンド公爵令嬢とパメラ・ハットン子爵夫人に接触がありました。レナード・オースティン伯爵も一緒のようです」


侍従のアルバートから報告を受けたのは、家門会議が終った直後だった。


「あと、エリザベート王女殿下が天幕でお待ちでございます」

「すぐに行く。パメラ夫人の件も引き続き監視してくれ」


自分の仮説通りの展開に、思った以上に興奮していたらしい。会議に出席した貴族たちから声をかけられたが、挨拶もほどほどに自身の天幕へと足早に向かう。


うちの一門でもないマコーリー侯爵に声をかけ、給仕係の増員を願い出たのは正解だった。キャスリンとオースティン伯爵をつなぐ糸がエドワード・ローズベリー先代伯爵だと仮定して、エドワードの妻だったパメラ夫人が現れたら何か動きがあるだろうと考えたのだ。

正直、半信半疑で指示したことではあったが、もはやエドワードとの関連性は否定できないだろう。


なぜ、亡くなった男と彼女に関係が?


肝心の答えはさっぱり分からないが、少なくともキャスリンとオースティン伯爵は恋情以外の何かでつながっている。その事実に少し安堵した。いや、疑惑が晴れてすっきりした、だけだ。


「ユージーン・アーガイルです。お待たせして申し訳ございません」


自分の天幕の前で名乗る滑稽さに笑いそうになるが、入り口の両脇に王女の近衛兵がいるので至極真面目な顔で中に入る。簡易的な机と椅子が置かれただけの狭い空間に、王族らしい気品を漂わせて、この国で唯一の王女、エリザベート・ヴァンダルが微笑んでいた。


「久しぶり、ユージーン。王宮での舞踏会以来かな?」

「そうですね。狩猟服もお似合いですよ、エリザベート殿下」


「珍しく機嫌が良さそうじゃないか」

「殿下にお会いできたからでしょう」


「相変わらずだな。まぁいい、手首を出せ」


彼女の命令の意図に気付き一瞬躊躇する――が、素直に右手を差し出した。黒で統一されたアーガイル家の狩猟服に、ふわりと揺れる黄色のリボンがひときわ目立つ。


「キャスリン嬢……ね。先ほど会ったよ、可愛らしい方だな」

「懇意にさせていただいております」


へぇ、と気のないそぶりを見せながら、王女がキャスリンのリボンを指でなぞった。


「なんだこの絵柄は」

「彼女には、俺が可愛い猫に見えるらしいです」


「まるで、おままごとだな」


くすりと愉快そうに笑うと、王女は自身のリボンを取り出した。


「カモフラージュに純真無垢な令嬢を利用するものではないよ」

「邪推ですね。存外、俺は気に入っているのです」


キャスリンの嫌そうな顔を思い出して、思わず口角が上がってしまった。それを見とがめられたのだろう。王女のリボンを巻く手が一瞬止まり、鈍い痛みが手首に走った。


「そうか。では覚えておくといい」


不機嫌そうな顔を隠そうともせず俺の首元に手をやると「私も存外気に入っているんだよ」と告げた王女は、力強く俺の襟を引き寄せて唇を合わせた。


「武運を祈っている。では、森で会おう」


王家の紋章でもある鷹が刺繍されたリボンを俺の手首に残し、アメジストの髪を翻したエリザベート王女が去って行った。入れ替わりに、無表情のアルバートが現れる。


「ユージーン様、紅が付いておられます」


手際よくハンカチで俺の口元を拭いながら、何があったか悟ったのだろう。


「エリザベート王女殿下にも困ったものですね」

「いつものことだ」


「もう少し強く仰ってもよろしいかと」

「大したことではない」


ヴァンダル王家唯一の姫として甘やかされて育ったせいか、エリザベート王女は竹を割ったような、駆け引きなしの単刀直入な言動を好む。その性質を危険だと非難する貴族もいるが、それは大きな間違いだ。彼女はああ見えて高い知性を持ち、わざと愚直な態度で相手を意のままに操っていたりもする。


それでも幼少期からの幼馴染であり、自分には特に懐いていた彼女のことは、それなりに大切に思っているのだ。


「ユージーン様のお好みではございません」

「……それ以上続けたら不敬罪だぞ」


妹のように可愛がってはいても、女として見たことはない。今のように勝手に口づけられることも、当たり前すぎて気にも留めていなかった……が、もしかして悪い意味で慣らされてしまっているのかもしれない。


気の赴くまま女性に口づけてしまうのは、エリザベート王女に影響されたからだろうか?今までの女性たちは好意的に受け入れてくれたので、キャスリンに怒られるまで気付かなかったが、これは割とダメな癖なのではないだろうか。


ふいにアーモンド型の目をとがらせた令嬢に会いたくなった。


「公爵令嬢とパメラ夫人はどうしている?」

「もう狩猟大会が始まります」


俺がリッチモンド公爵令嬢を構うことが、まだ気に入らないのだろう。「早く報告しろ」と鋭く告げると、いつもの不機嫌な微笑みを浮かべたアルバートが続けた。


「人目につかない場所で三人で話をしていたようです。内容までは分かりかねますが。その後、パメラ夫人とオースティン伯爵の双方と別れて、公爵令嬢お一人で滝つぼへ続く山道へ向かわれたとのこと。すでに尾行は解除しています」

「護衛も付けずにか?ちょうどいい、話があるので追いかける。俺が合流するまで、モンターギュ侯爵に指揮を取るよう通達しておけ」


そう指示を出しながら必要な装備を手に取り、馬屋に向かって歩き出した。


「ユージーン様には当主としての自覚が欠けておいでです。このままでは、いつか痛い目にあわれますよ!」


こうして、怒り狂ったアルバートの予言が当たることになる。

【今話のクマ子ポイント】

都合よく白馬の王子様が現れた裏側。

パメラ夫人は王子様が仕組んでました。ʕ๑•ɷ•ฅʔ

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