第七話
ただ突っ立っていた。その目には何も映さず。
ああ、どうして彼女は自分を光へ連れ込むのだろうか。こんな、こんな自分を?
不意に、服が引っ張られた。思わず足がよろめく
「ようやく見つけた。ここ人多いからはぐれないように」
ティア、だ
いつものようにあの無感情な瞳に自分がうつる。血色のいい彼女の手が自分の服のすそを引っ張って歩き出す
――俺の手は、白い
日にあたったことが少なすぎる、自分
引っ張られるままに俺もティアと一緒に小走りになる。人にぶつかりそうなのを何度か避ける
「…さっきから一度も言葉を発してない。何かあった?」
きっと、彼女は人をかきわけるのに必死でこちらを振り返れないだろう。それでも俺は頭を振った
「…ううん、なんでもねぇよ?」
「………」
無言のまま俺たちは人の波をかきわける。進むにつれてだんだん人が減ってきた
だから歩きながらようやく辺りがよく見えた
城を正面に見て、右。へ行っているらしい。遠くを見れば、人が一人も見えない
「ユーナ、右の建物」
言われてそちらを向いて。――腰を、抜かすかと思った
大きな建物だった。城程大きくないが、城を覆う城壁くらいはあるのではないだろうか?
丁度目の前に見える扉も大きく、五人くらい並んでも余裕で入れそうだ
こんなものに今まで気付かなかったのも、大きすぎたせいだ。これはいくらなんでも今まで商業地区とやらしか見ていなかったので吃驚だ
こっち側にはこんなものがいっぱいあるのか、と思って見回してみるも、どうやらこれひとつが大きすぎるだけのようだ
何も言わず、ティアがその大きなドアを開ける。古びた扉だが手入れはよくしてあるようだ
入った瞬間、また呆気にとられた
照明は明るすぎず、昼間の外と同じくらいの明るさ。
俺たちが入った部屋はホールのようだ。サ、シア、違う、シャンデリアとやらを置いても違和感の無い広さと豪華?さ。
そして俺を一っ番驚かせたのは。そのホールにぎっしりと置かれた本棚である
全ての本棚は蹴ってもびくともしないであろう頑丈なもの。に、本がぎっしり。厚さもバラバラ、ジャンルもバラバラ。
「…王立図書館。此処なら知りたいことあるかなって思って」
ティアの目が妙に爛々と輝いている。珍しい。よっぽど来たかったらしい
じゃ、と一声かけると戦闘の俊敏さを思い出させるスピードで去っていってしまった。壁に「走るな」と書いてある紙が目に入った
「…えーっと」
よし、一旦頭を整理しよう
…………
あの様子じゃティアには追いつけないし、追いついたところでこっちなど眼中にも入れないだろう
だからといって此処の外に出たら多分また迷子だろう
…俺も調べ物するか?そうしよう!
とりあえず近くの本棚からぽいっと本を出す。なるべく薄いもの、と選んだそれは、神話だった
表紙に描かれた三人の綺麗な男女が目を惹く。随分と立派な紙で出来ているな?
描かれたこの三人は多分、神様。神話、なんて自分はひとっつも、なんっにも知らない
ゆえに興味が高まる。本棚に壁を預け、その本を開いて読み始める。どうやら幼い子向けのものらしい。
―――昔、むかし。『世界』がまだ無かった頃
そんな出だしの本。
―――『世界』を作り出したものがありました。『オーク』という神様がそこへ訪れました
神様は先ず、孤独を悲しみました。よって神様は二人の闇を集う神様と光を集う神様という対極の存在を作り出しました
三神は、悩んで悩んで世界というものを作り出すことを思いつきました。そして世界をつくり草花を生み出し『人間』や『獣人』、『魔物』などを生み出しました
神たちによって育まれていく世界は、実をつけ文明を開花させ…順調に育っているように思えました
けれど、一つの出来事が起きました
光と闇の神様が、オーク神を裏切ったのです
それにより、オークは怒り狂い、暴走し、世界を分割してしまったそうです。
一つの世界がなんこにも区切られました。その区切られた世界は『区画』と呼ばれています
私たちが生きてるここも区画といい、地の下にあるという、魔物が住んでいるとされているところも『区画』と思われます
オークを裏切った二神は、眠らされある罰を与えられたといいます
その罰とは、二神は一生会えず触れ合えず、ただ無為に生きていくという罰らしいのですが、今でもまだ詳しくは分かっていません――
そこまで読んで、ユウナは音を立て本を閉じた
――妙に、懐かしい響きがする”オーク”…
唸って考えてみるものの、分からない。ていうかもうどうでもいいや。きっと気のせいだ
どうでもいいや。きらびやかに描かれた本の表紙が目に痛い。本当は神の形など分かっていないらしい。異形とも人の形をしている…とも言われている
異形。人の皮を被った異形がいるならその逆も居るのかもしれない
「……あ、調べたいこと、俺まだある」
不意に、”調べたいこと”が頭の中に浮かんできた。
”オーク”のことはとりあえず頭の片隅に覚えることだけはしとこうと思っとくようにすることに決めたことを忘れないように誓いつつ、ユウナは本を戻し、歩き出した