第五話
それから後、自分で適当に手当てをしようとするティアを引っ張って俺は病院に居る
病院。それは――ティアから聞いたのだけれど――治癒魔法を使えるもののみが居るらしい。煌星の中にも攻撃魔法と回復魔法をどちらかを扱える奴。両方扱える奴が居るらしい
――俺はどっちなんだろう?もし回復だったら便利だし…やっぱり練習しよう
治療が終わった、と言ってティアが俺に声をかける。見れば、足には血の跡すらなかった
「…ん、じゃ行くか」
なんだか妙に照れくさい。歩を早めて歩く俺に、無表情のティアが笑った気がした
ドアを思い切って開ける。出て行く前に、病院の中を見ればまたティアがもの珍しげに見られていた
今度はもう何も思わず、ただドアを閉めて歩き出した
「……ティアー、話の続き」
「ああ、依頼のランクはDが一番下。それからC、B、A、となる。
…報酬金貰いに行かなきゃ。倒したって証拠のキバ、拾ったから」
宿屋、兼ギルドに向かう最中、ティアがそう告げ、腰のベルトについているポーチを叩く
「…へぇ。で、その後どうするんだ?」
「荷物をまとめてこも町から出て、王都に向かうよ」
「…近いのか?」
「馬車を借りよう。そうすれば今日の夜には見えてくるから」
「馬車…だと…」
ドキがムネムネする。馬車なんて乗ったこと無い。馬なら町に入ったときに見たが
「…まぁ、今は物騒な世の中だから馬車は襲われるかもしれないよ」
出かける前にそう言ったティアの言葉が今聞こえてきました。
因みに今わたし達は馬車の中で溜息を同時に付いたところです
ここで状況を整理しよう、
馬車は大きい。5人くらい乗れる。それを魔法で行き先を指定された馬が引っ張っている。
馬車の中は俺たち含め、四人。魔法で馬を操作している人と、もう一人深くローブを被った黒い髪の少年が居るのだ
そして、此処で溜息をついた理由も考えてみよう
「まだ夕方だっていうのに…」
ティアの無表情な顔に疲れが刻まれる。俺たち朝から魔物と戦って言うのにな
馬車は朝戦った魔物に囲まれている。数は朝より多い。と思う
「どうする?馬車で逃げ切れる…わきゃないんだよな?」
「うん、逃げられないよ」
「嘘だ」
「本当」
「嘘」
「ほんと」
「嘘だ!!」
押し問答を暫くしてから、ティアが馬を操作する人に声をかけて、馬を止める
「馬車を守りつつ、私たちの援護をお願いします」
――やっぱり戦うんですね、わかって、ました…よ
馬車のドアを開けひらりと飛び降りるティアに続き、俺も降りる。その際に銃を抜く
それから、ドアを閉めようとした際に同乗者までもが降りてきた
「…貴女は馬車の中からでいい。そこから魔法で援護してくれれば」
そう言ったティアに少年は首を振る
小さな小さな声で少年は言う
「僕の魔力は少ない。からあまり遠すぎると意味がない。近くでないと、効かない」
「…まあ、こっちも援護してくれたほうが生き残れるから。頼んだよ」
そう言ってティアが一歩前に出る。魔物が唸る。いや声帯があるのかわからないからどうとも言えないのだが
「はっきり言ってきついよ。私一人で前線で戦わなきゃいけないから」
相手の返事すら待たず少女は走った。こちらが覚悟を決める間すらくれない
走った反動で勢いをつけたけりを近くの魔物にくらわせる。
一瞬で急所をつき呼吸を止め、その勢いを落とさず隣にいた魔物へ回し蹴りをくらわす
その隙をつこうと後ろから迫る魔物を俺が銃で撃ち落す
俺の隣に居る同乗者――しまった、名前を聞いてない――も、言ったとおり魔術は弱いらしく詠唱に時間がかかっている。白い光が魔物の近くに浮かび上がる。と同時にそれがはじけ飛び魔物が絶命する
そうやら一体一体確実につぶしている様だ。炎を手先から出しそれを飛ばし近くの魔物を燃やしたのを見届けてから他へ視線を動かす
馬車は――心配はいらないようだ。きちんと守ってくれている。といっても、守るだけでいっぱいっぱいのようで、援護は期待できない
ティアが、同乗者くんの魔法をくらった魔物を蹴り上げとどめをさす。それから飛び掛ってきた魔物より高く飛び上がり踏みつけて馬車の上へ飛び乗る
発砲音が響く。馬車に近づいてきた魔物の胸部を撃つ。どうやら急所にはいかなかったらしく、素早く射程外の距離まで逃げられる
「…下手糞」
うん?いまこの男の子何か言った?
丁度、ティアが馬車の上から飛び降り一気に固まっている魔物を蹴散らしたところだった。まだ動けそうな魔物を同乗者くんが吹き飛ばす
俺は俺であたりを見回す、とだ!丁度馬に近づく魔物が居る。それを撃とうとしたところに魔法が放たれる。どうやら馬車を守っている人もきちんと仕事をこなしているようだ
「ユーナ!」
鋭い声。それから左、と声が掛かる。あ、これ前にもあったな
銃をそちらへ構え…る前にその魔物が五メートル以上高く舞い上がるのが見えた
「…やっぱりこうなるかぁ」
ぽそり、と同乗者くん。どうやら彼が手を振るって投げ飛ばしてくれたらしい。
俺が素早く同乗者くんの後ろに近づいてきた魔物をうつ。目を狙う。外した。また致命傷は負わせられなかった
ティアが蹴り飛ばした魔物がこちらに飛ばされる。それを銃のグリップで投げ飛ばしてからティアの周りに居る魔物に牽制として銃を撃つ
「やっぱり下手糞ぉ」
「うっせぇ!!」
――ならお前が扱ってみろこの魔力に頼りっぱなしの煌星がぁ!!
と、煌星を全く知らないくせに心の中で悪態をつく
「…きつい、ね」
だん、と魔物の腹を踵で蹴ると、その反動でティアがこちらに跳躍して戻ってくる。肩があがって息が荒い
気付けば、最初と変わらない距離の魔物が距離を詰めてきていた
減らない。減らない。
あせりが汗となって頬をしたる。このままだと皆が殺される。もしくは俺が力を発動して、多分、多分皆を巻き込んで殺す
――それだけは!
思わず銃を乱射する。ユウナの止める声が聞こえる
魔物が威嚇し、殺気を高める。俺の身体を力が巡る巡る巡る
「…ティア、って言ったよね。後もう一回頑張って」
そう言って、同乗者くんが静かな声でしっかりと告げる。
もうあのか細い声はどこにもなかった
「それから、気付かないでね」
同乗者くんが地を蹴る。それは砂煙が音をたてて舞い上がるほど大きな力で
慌ててティアが走り出す。その顔は、目を見開き唇が嘘、と呟いているのが見えた
ティアは、気付いたみたいだった。――何にだろう
同乗者くんの動きは、ティアよりも素早くティアよりも重くティアよりキレのある動きだった
まず魔物を素手で掴むと地面に叩きつけ、その叩きつけた魔物を投げ飛ばし、直ぐに他の魔物へ襲いかかった
次の魔物を足を振り上げ蹴飛ばし魔物の輪の中へ入る。魔物が一斉に同乗者くんへ襲い掛かった
身体を大きく捻るのが見えた
片方の手で魔物を掴みもう片方の手でも掴み他の魔物を巻き込み10メートル以上遠くへ飛ばす
足元から迫ってきた魔物を蹴り飛ばし高く上げてから手で弾き飛ばす
それでもまだ襲ってくる魔物をティアが大きく上げた足を振り下ろすことで絶命した
辺りには、死骸が散らばり生きている魔物は全て居なくなっていた。ということは彼の触れた魔物は全て絶命したといことだろう
俺は動けなかった。銃を握る手が汗で滑る。ティアが荒い息で同乗者を見つめていた
その荒い息のみがこの静かな空間で聞こえる唯一の音
…そして、ティアが静寂を破る
「あなた…煌星と降星の混血…」
同乗者くんがローブから頭を出し、手を振った。後で聞いたけれどこれは魔法を解除する際の動きらしい
それによって、彼の魔法で染められた黒い髪が銀色に戻るのがほんの一瞬だけ見えた
太陽が、もうじきに沈む
「嘘だ!!」について…ごめん、謝っとく。分かり辛いわ地味だわ…変な風にネタ入れてごめん
誤字脱字教えてくださると嬉しいです
感想、お願いします…