第四話
窓を見上げる、空は曇り
まだぼんやりとする頭でそんなことをユウナは思った
あのまま熟睡――最早爆睡――して、朝になったようだ。あ、まずい。服がしわになったかもしれない
とりあえず立ち上がる。もう片方のベッドにはティアレの姿はない。すごい、とただ純粋に感心して溜息をつく
髪は寝癖で自由奔放に跳ねているだろうが気にはしない。服を軽くたたいて、それから宿のドアを開ける
とりあえず、宿屋の人に声をかけてティアレを探そうか。そう思っていた矢先に丁度その人が戻ってきた
「おそよ」
「…おはよ」
嫌味?何それおいしーの、というような顔、分かりやすく言えば口を曲げ不満そうなユウナに向かってティアレは言葉を投げる
「走ってきた。ご飯も買ってきた。部屋で食べよ」
「ああ」
彼女の片手には、小さな袋。
因みに彼女はマントを外し、シャツと短パンというラフな服装だ。ただ、汗でべったり張り付いている
宿の人が思わず凝視してしまっているが、それを気にせず部屋へと歩く
「ティア…お前、なんかもうちょい…」
恥じらいを持て。そう言ったがティアレはそんな彼女の言葉を軽くあしらう
「世の中には恥じている人を見て興奮する人も居る。堂々としてれば男は萎えるものだから」
おお、とユウナは思わず感心する
そうじゃないだろ、と突っ込める人はここに居なかった
「ほれへ、かねってほーやってひゃめるんら?」
「食べてから喋ってよ…」
この町の特産物である、リオルという果物を挟んで作られたサンドウィッチ。それを口に入れながら喋る
中々おいしい。ただリオルもパンも元は温かかったらしく、今は生ぬるい
「…それで、どうやって金って貯めるんだ?」
「魔物が出るようになって、色々被害が増えてる。それは腕っ節が強い人とかでないと対処できない。魔力が少ない人のがこの国には多いはずだから
そうすると、魔物がでるせいで作物が取れなかったりして困る。だから依頼として『ギルド』ってところに出す。
そうすると、ギルドに加盟している人が魔物退治、他は護衛だとか…の、依頼を受ける。それで報酬を受ける」
簡単な説明。
「特に、疑問点はないけど…あ、でもそれって死傷者出るんじゃないのか?」
「ギルドへの加盟は誰にでも出来る。ただ、その際に書かされる。『当ギルドは責任を一切負いません』って」
「…つまり、死んだら…」
「力量をはかりそこねた愚か者の自業自得」
ギルドについてはなんとかわかった
「ああ、よっぽど小さな町以外には大体あるよ。経営費もそんなにかからないみたいだし。いまや国が推奨してるぐらいのシステムだから
軍隊を一々派遣してられないし、お偉い様方は…煌星以外を助けるのには抵抗あるだろうし」
「…あ、その煌星っていうの。10年位前に、『人類平等法』ってのが出されたんじゃないのか?」
『人類平等法』その名の通り、どの種族も争わず迫害をしない。という夢のような法律。それが王様から直々に出されたらしい
「……ユーナ、覚えておいてね。きまりが出来たとしても、ずっと前からの習慣のようなものは消さないものだよ。
無理だよ。今は。もう何年かたてばわだかまりは無くなるかもしれない。だけど…今は、出来ないよ」
「なんでだよ、おかしいよ」
「十人十色。皆が皆、ユーナや王様みたく思ってないってこと」
相も変わらず、その顔は無表情だった
――ティア、お前今何思ってる?
「……人が来る前に依頼を受けよう、ユーナ。宿屋がギルドも一緒に経営してるから。私は…先行ってるよ」
呼び止めるまもなく素早く出て行く。ティアレの去った後、一人になったユウナは小さく窓に向かって罵ってみた
「…太陽、照らせよおい…」
彼女の表情を、照らして欲しい
――迫害される理由がわからないでもない。自分もそうだったのだから
でも、納得はできない。俺とは違って皆は人間、普通の人間だというのに?
「ランクはD。この町の近くの獣型魔物を倒すこと」
昨日と同じように、兵士の隣を通り過ぎ荒地に出た後でユウナはティアレに言われた
此処は、どうやら魔物の住処が近いらしくよく魔物の出現が報告されている
ちなみにティアレはきちんと着替え、マントも腕に巻きつけている
「はい、先生!」
「なに、ユーナ」
「”獣型”ってなんですか!」
「魔物には、”獣型”、”竜型”、”人型”が今発見されてる。どれも、生存本能が強いため人を食らう。
獣型は姿は勿論獣。一番数が多い。強さはあまり強くない。竜型はとても強いと聞いたけれど、数は少なく地割れ付近にしか居ないらしい。
人型は人の形をして身体の一部が違うだけ。生存本能以外にも感情があるといわれていて人間にとても近い。ただ、殺戮への思いが強い」
頭の中の真っ白いメモ帳に刻み込む。ほうほう
ティアレはユウナが反復する様子を見てから、腰のベルトに下げたカバンから小さな手の人らほどしか刃渡りがないナイフを取り出す
何をするのか――、と顔を上げたときになんの躊躇いも無く、彼女は自らの手のひらを切った
「言ったよ。獣は生存本能が強いって。だから血の匂いをかげば、きっと”ご馳走”に気付いて出てくる」
「だ、けどよ!」
「大丈夫だよ。私は戦闘に手は使わない」
そう言う問題ではない。
「それに、ほら――、やっぱりユーナもちゃんと鍛錬したほうがいい。もう魔物すぐそこに居るよ?」
血を垂らしながら、ティアレが指差す。その方向には、真っ黒い鉤詰めをもった四速歩行の獣
「大丈夫だよ。ほら構えて」
ユーナ、と呼びかけられてから、はっとしてスカートをめくりあげる
水色のスカートがめくりあがればその下には短パンと、そこに括り付けられた二丁の小さな拳銃
それを両方とも掴み照準を合わせる。何故だ、ゆれる
――そうだ、わたしは今まで向かい合ったことは一度も無い
まして、自分の力に頼らないで立ち向かうなど
地面を大きな音を立て、ティアレが踏み出す。
「待ッ…!!」
止めようとした手が空をかく。けれど、声が届いたのかティアレが振り向いて声を出さずに呟く
――大丈夫だよ
「…何がッだよッ……!」
何も、大丈夫ではない。身体ががたがたと震える。あの見るもおぞましい獣とティアレの距離が縮まる
「ティアッ…!!」
わかっている。獣はこの小さな銃の射程圏内に入っている
震える照準。一発撃て。撃て。撃て撃て撃て撃て撃て!!
「ユーナ!!右!!」
その声にびくりと震え、右を見ればもう一体。同じ形のケモノ
「ひッ…!」
ああ、駄目。こっちに走ってきてる
足がすくむ。赤くぎらぎらとした目が合う
――大丈夫、大丈夫なーんだよ!!
震えが収まる。右手の銃を構えなおす
照準は、その目
耳を裂くような音の後、獣の目から血が噴水のように出る。赤い血が獣の体毛を染める
けれど、それでも獣は走ってくる。
すかさずユウナは左手の拳銃も構える。両手の銃を、魔物に揃え。放つ
連射音が繋がって聞こえる
その弾は魔物の腹へと辺り、血があふれ出て魔物の叫びとともに空に上がる。その弾は魔物の首に当たり、魔物の残った目がぐるりと動く
その弾は。その弾は
魔物が荒地に倒れ動かなくなる。ユウナはそれを見て目を伏せた後、ティアレと戦う魔物に向かって銃を向ける
力を放ったあのときのように地面が血で溢れていた。それに対して彼女は何も思うことはなかった
「ティア、退いて!」
その魔物と戦い始めてからも、ずっとユウナの様子を気にしていたティアレが溜息をつくと同時にユウナから鋭い声が掛かる
問い返すことも慌てることもせず、ティアレは脇にどく。
これで彼女と魔物の間に邪魔者は居なくなった
彼女は、両の手で引き金を引く。その魔物が動かなくなるまで。
ようやく動かなくなった魔物を視認し、へたり込もうとしたユウナにティアレから声が掛かる
「油断しない!魔物の血にひかれ他の魔物が集まってきてる!これを滅し依頼達成とし、町へ帰還する!」
いつもとは違う、分かり図らい優しさなどひとつもこめない声
その言葉と同時にティアレが走り出す
先ほどのよりすこし大きな魔物に向かってティアレが高く飛び、上空から魔物の背中にかかとを放つ
地面に着地した後、悶えているその魔物を、他の魔物に向かって蹴り飛ばす
仲間をぶつけられた魔物は遠くまで飛ばされる。体勢を立て直そうと二匹が立ち上がったときには、銃の音が響いていた
がくり、ともう一度膝をついた魔物を見ることも無くティアレは後ろから飛び掛ってきた魔物の攻撃に対し、しゃがみこむ
攻撃を避けた後、もう一度飛び掛る魔物に対し、先ほどナイフで切った手を振る
まだ止まっていなかったその赤い血に魔物は酔ったようで一瞬殺気がゆるむ。その瞬間にユウナの銃撃が
「後、一体ぃぃ!!」
すこし遠くにいるその最後の魔物をユウナが銃で撃つ。ひらりひらりと避けつつしっかりとこちらと距離を詰める
「親玉だよ!」
そう言った後に、ティアレが魔物へと走る
魔物が低く身を屈め、高く跳躍する。攻撃する、と思っていたティアレに対しこの不意打ちはきいたらしい
ティアレを高く上空で追い越し、その後ろへ
「ユウナ!」
勿論、注意する必要も無くユウナは銃を撃つ。しかし、一発も掠りもしない
魔物の後ろから追いついたティアレが襲う。回し蹴りを放つものの魔物はしっかりとタイミングを読み避ける
短い音が、して魔物の腹部をユウナの銃が貫く――。しかしそれは魔物にはなんの障害にもならなかったようでティアレの追撃を逃れた魔物はユウナへと距離を詰める
――魔物のつめが迫る。駄目だ。自分でなんとかする。力は発動しないで
「うっ、あ、あぁぁ!!!」
悲鳴と共にユウナが銃のグリップで魔物の顔を殴る
地面に叩きつけられたその魔物にティアレのかかとおとしが迫る。中々相手も素早く、それを確認するとすぐに転がって立ち上がる
殴られた所為で数本キバが折れたようだがそんなのは気にも留めず、殺気だった目でにらむ
短く息を吐き、ユウナが地面を蹴り攻撃をしかけるものの、ひらりひらりと魔物はかわし再び距離をしっかりととる
「避けてばっかりッ!」
ティアレの罵りがわかったのか、魔物は方向を変え、ティアレへとそのキバを向かわせる。ティアレは素早くしゃがみ込み、逆に食らいつこうとしたその口に蹴りを入れる
遅れて、足に痛みと生暖かい感触。魔物から足を引き抜き、手で地面を押し両足で魔物の腹を蹴り飛ばす
音にならない声が口から漏れ、魔物の口から血とねばねばとした唾液が吐き出される
それからしばらく唸ったり悶絶していたが――ぴたり、と動かなくなる
「依頼達成…。やっぱり、Cランクはきついね」
Dランク、と最初に言ったことを忘れたかのようにすがすがしく言う。
それから思い出しかのように、「ああ、依頼にはランクがあって、Dが一番下で…」
しかし、足は血と魔物の唾液に塗れぼろぼろである。昔から擦り切れていたマントがもっと擦り切れている
「…ティアレのばかたれがっ!!!」
初めての戦闘だというのに、それを忘れたかのように――ユウナの怒声が響き渡った曇りの日。
これが竜頭蛇尾ってやつですな。まだしっかりと更新できてます。最初だもの…!(てへ☆
誤字訂正あったら教えてくださるととても嬉しいです。
それから何か意見や分かりづらいところがあったら言っていただければ。
感想も待ってます。寧ろ感想を一番待ってます。待ってます(大事なことなのでry
因みに、ユウナはアホの子です