プロローグ
漆を塗ったかのような黒く太陽に輝く髪
その髪は長いわけではなく、肩につくぐらいのもの。綺麗な髪ではあるが、手入れなどは気にしていないのかつんつんと跳ねている
その髪をもつ少女は荒野で座りつくしていた。見えるものは、魔物だ
枯れた木や、草が見えるが少女はそれを髪と同じ黒い目に移してはいなかった
この世界正確に言えば、世界の中のこの区画での旅人には必需品ともいえるマントが髪とともに靡く
少女の周りに居る魔物は一見すれば、”犬”にも見えないことは無い。ただ、口の牙を剥き出しにしてそこから漏れる涎。逆立った髪。少女の手ほどもある長いつめ。何より、それから感じられる殺意を気にしないというならば
その魔物は四つ全ての足に力を入れ、少女に突撃した
――殺すならば殺してくれ。
願うように。いや、懇願するようにだった。その少女のつぶやきは
少女の白い肌に涙が滴る
大きく口を開けた魔物は、その瞬間目も見開くこととなった。
それは少女が泣いたからではない。明らかに、動かない少女から発せられた力に。明らかに、少女の体躯からはかけ離れた力に、明らかに、まだ十代の半ばのこの子から発せられた力に。驚きを感じて
その驚きを感じたと同時にに、魔物は少女から発せられた目に見えぬ、音も無い衝撃に”焼かれた”
いや、ばらばらにされ焼かれたのだ。頭と胴体、四肢が吹っ飛び、胴体が裂かれ臓物があふれ出る。
それらは嫌な音を立て落下する寸前に炎に包まれ一瞬で燃えカスへと変化する
燃えカスがたどり着いた地面は大きく陥没していた
半径3メートルほど。それは少女の力がいかに圧倒的、破壊的なものだったかを告げる
「はははっ」
しょうじょはわらった。
それは楽しいからという理由ではない。それはだって先ほどのように感情をともさない瞳だったから
ああ、もう。
誰も、何も、誰にも、この力をもって生まれてきてしまった私を死なせることが出来ないのだ
少女は別段長いわけではない瞳を伏せ、再び地面に涙を落とす
それから、感情の無い少女の瞳に狂気が移る。
純粋な、ほかの感情が混じっていない、”狂気”
あそこまで圧倒的な力を出したというのに、少女は狂ったように悲鳴をあげる
「うあぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
がくり、と少女の状態が地に伏せる。絶望。
何故、わたしが絶望しなければならない?
わかっている。この忌むべき力のせいだ。それだけのせいだ!
足音が、聞こえる。
「…大丈夫、ユウナ?」
高い少女の独特の声。高いながらにもよく響く声だ
少女はブーツの金属音鳴る。少女はユウナの四歩手前で止まる
「イヤ。いやいやいやいやいや!!!!!」
近づいてきた、”契約相手”に怒鳴る
それでも契約相手は動かない。怒鳴り声が枯れて聞こえなくなるまで、動かない
「…大丈夫。貴女は、私が殺すから」
口にした不穏な言葉とは合わないその落ち着いた声。それにはどこか人の安心感をもたらす要素が入っているようだった
だいじょうぶ、だいじょーぶなんだよ!、と明るく少女は落ち着いた声で言う
ユウナ、の震える肩収まっていく。地に伏せた顔からあふれ流れる涙が落ち着いてゆく
「契約は、守るよ。」
――二人が互いの体温を、感じたあの契約を