【番外編】夏空に君を想う
BGMはキタニタツヤさんの『青のすみか』はいかがでしょうか。
「君が……レノンの代わり……?」
僕の前に現れた少女。
ミレア・マヴィリス。
“大魔法使い”と言われ、魔王ルーファスの弱点である『コランダムの心臓』を暴き、そして姿を消したレノン・S・グレープ。
彼を師匠と仰ぐというその少女は、銀髪長髪に、アメシストのような紫の瞳。長い手足に濃い紫のローブを着ているが……。
彼女が魔法使い?
華奢で小柄であり、もしドレスでも着ていたら、貴族令嬢に見える姿。
エルフの純銀に守られた魔法石がついた魔法の杖を手にしているので、かろうじて魔法使いとは分かるが……。
「お嬢ちゃん。わしらは魔王を倒すんじゃ。いくらレノンの弟子とはいえ、お嬢ちゃんには荷が重かろう」
ドワーフのトッコがそう言いたくなるのは分かる。
「ノクス、トッコ。彼女は魔法使いです。見た目で判断するべきではないでしょう」
エルフのフォンスはそう言うと、優しくミレアに微笑みかけた。
「……ミレア、と言いましたよね。どんな魔法を使えるか、見せていただけますか?」
「分かりました」
ミレアは自身の両手を見ると「強化魔法 握力増強」と唱え、杖をそばの木に立てかける。その上でその木の背後にある大きな岩の前に、まさに仁王立ちになった。
彼女の背の数倍はある巨大な岩。
何をするつもりなのか。
「持ち上げますね」と天気の話でもするかのような気軽さで言った次の瞬間。
大地が揺れ、ズドンとお腹に響く音と震動を感じた。
「な、なんじゃと!? あの大岩を持ち上げ、放り投げた!?」
力自慢のトッコが口をあんぐり開け、固まった。
◇
「フォンス、翼を狙え!」
だが魔王は矢をつがえようとしたフォンスに向け、すさまじい風をぶつける。
「フォンス!」
吹き飛ばされたフォンスをトッコが受け止める。
あわや崖から落ちる寸前だった。
視線を前方に戻すと、魔王は既に翼を広げ、飛び立っている。
逃げられてしまう――!
「ノクス、飛ばします!」
「ミレア、何を!?」
「浮遊魔法 重力反転」
突然、体が浮き上がり、これには驚く。
「風魔法 強風前進」
「ミレア、待て――」
魔法の腕はレノンに負けないぐらい一流。
だが戦闘を知らない。
ミレアの魔法で僕は空を飛べたが――。
「うわあ」「つう!」
僕は魔王に激突。
お互いに石頭比べをして、僕は気絶し――。
◇
「……ごめんなさい、ノクス」
「いや、大丈夫だよ。ミレアが助けてくれたから、たんこぶ一つで済んでいる」
「でも……フォンスとトッコとはぐれてしまいました」
「仕方ない。ただ、落下地点は目視しているだろうから、ここで待っていれば追いつく。それより、昼食の途中で魔王の追跡が始まってしまった。お腹が空いているのでは、ミレア?」
僕が尋ねた瞬間。
「きゅるるる……」とミレアのお腹の虫が鳴いている。
その可愛らしさに思わず笑みがこぼれてしまう。
「火の準備を頼んでいいかな、ミレア?」
「あ、はい!」
「僕はそこの小川で魚を捕まえるから」
ミレアはこれから焼き魚を食べられると分かり、その顔がぱあぁっと輝く。
「任せてください。すぐに火を起こします!」
そこからはお互いにすべきことをして、そして――。
「ほら、ミレア、もう食べられる。塩があるから、つけるといい」
「ありがとうございます! ノクス」
ミレアは嬉しそうに串焼きにした魚を僕から受け取ると「いただきます!」と、とても美味しそうに口にする。
「はふっ! 熱い!」
「気を付けて」
そう言って唇の端についた焦げを指で落としてあげると、ミレアは「旨いです!」と満面の笑顔になる。
僕より年下のミレア。
出来がいいのに不器用な妹ができたようで、その成長を見守ることになる。
◇
「ミレア!」
「強化魔法 高速断絶」
「魔王、覚悟しろ!」
追い詰めたと思った魔王だったが、奴はそのまま湖の上を地上のように駆けて行く。
さらにその途中で翼を広げ、あっという間に空へと飛び立つ。
「ノクス、追いますか?」
「いや、あそこまで上昇されると、僕では無理だ。でも着実に魔王を追い詰める機会が増えている。ミレアのおかげだよ。ありがとう」
僕の言葉にミレアは嬉しそうに、そのアメシストのような紫の瞳を輝かせる。
魔王を追い、旅を続ける中で、ミレアは戦闘を学び、魔法の発動のタイミングも完璧になった。僕も空を飛ぶ魔法をミレアに掛けてもらい、コントロールする術を身に着けていた。魔王との空中戦も、難なくできるようになるかもしれない。
「あ、ノクス」
背伸びをしたミレアが私の方へ体を近づけ、その手が耳の上あたりに触れる。
ミレアからは石鹸の香りがしていた。
「ノクスは運がいいですね。偶然、髪に四つ葉のクローバーがつくなんて、そうあることではないと思います」
そう言うとミレアが私の手に幸運の証を載せてくれる。
「……ありがとう、ミレア」
ニッコリ笑うミレアの笑顔。
その笑顔を見ると胸がドキドキするようになったのは、一体いつからだったのだろう。
どこかおっちょこちょいでありながら、魔法の腕は一流で、紅一点として僕のパーティに加わり、魔王を追うミレア。
魔王を倒し、平和な世になったら……。
ミレアはもう戦う必要はなくなる。
そうしたら彼女の瞳のような美しいドレスをプレゼントし、そして――。
夏の青空は限りなく澄んでいて、太陽の陽射しは明るく世界を照らしていた。
僕やミレアの未来は必ず幸せなものだと……その時の僕は信じて疑うことはなかった。
ノクスと言えば副団長~
お読みいただき、ありがとうございます!
本作、第3回ドリコムメディア大賞の最終選考中です。
応募総数5,086作品の最終選考46作品の一つに選ばれたのは、ひとえに応援下さる読者様のおかげ。
本当にありがとうございます☆彡
受賞できたらコミカライズです。
この番外編も漫画になった様子を勝手に妄想しながら執筆しました~