77:エピローグ
カランと音を立て、師匠はブランデーを飲み干すと、そのままソファから立ち上がる。
「まあ、世の中から悪者が完全に消えることはない。例えいたちごっこになろうと、それは潰していくしかない。そんな世界に悲観していては、限りある人生だ。勿体ない。今、愛弟子の目の前には、幸せを呼ぶ小石が転がっている。がっつりそれを掴む時だ。……うん。二人か、三人か。とにかく家族は多いにこしたことはないだろう。幸せになれ、愛弟子よ。俺はしばらくお前たちが平和ボケできるよう、この世界を見て回るから、せいぜい励むといい」
そう言って師匠がウィンクした次の瞬間。
転移魔法を詠唱した師匠の姿は、部屋から消えていた。
本当に。
ここは隠し部屋なのに。
そう思ったらまたもノックの音。
今度は誰!?と思い、返事をすると「シェナ……?」と顔をのぞかせたのは、ルーファスだ。
「ルーファス!」
思わず嬉しくなり、彼に抱きつくと、ルーファスは私を抱きしめながら、部屋の中の様子を伺う。
「……熟成したリンゴの甘い香り……。シェナ、ブランデーを飲んでいたのですか?」
「まさか! さっきまで師匠がいました。アナベルのことを教えてくれたのです」
ルーファスの手をとり、隣同士でソファに座ると、さっき師匠から聞いた話を聞かせた。斬首刑が決まったところまで聞き終えると、「そうですか……」とルーファスは大きく息をはく。
「わたしが転生した魔王ルーファスであると気づき、十五年間暗殺者を送り続けたのでしょうか。それとも王妃殿下を助けた聖皇への憎さゆえだったのでしょうか。いずれにせよ、第二王妃の執念は……。国王陛下の英断で、バッサリあの狂女との縁がこの世界で切れるのでしたら、安心です」
そこでいつもの明るい表情になると「先程シェナの両親とも話し、許可をもらえました。何よりも本人の気持ちを大切にすると、言われましたよ。そしてタイミングよく、王太子様が声をかけてくれたのです。おかげでわたしを取り囲む貴族や各国の大使たちから、逃げ出すことができました」と笑顔になった。
「え、逃げ出して大丈夫なのですか?」
「三時間ずっとお相手していたのです。休憩もなしで。少しぐらい、許されますよ」
そう言うとルーファスはソファから私を立ち上がらせた。
すると偶然なのか。
ガラスの屋根から月光がさしこみ、私とルーファスの周囲は、銀色の光に照らされた。
「シェナはなんて美しいのでしょうか! 月光を受け、銀髪がキラキラと輝いています。そのアメシストのような瞳も煌めいて、まるで女神が降臨したかのようです」
「ル、ルーファス、いきなりどうしたのですか!? 今日は誕生日でもなんでもないのに。いきなりそんなに褒められても……」
「今日は二人の記念日になります。わたしはいくらだってシェナを褒めますよ」
陶器のような白肌を、淡いローズ色に染めたルーファスが、片膝を床につき、跪く。そして私の手をとり、月光を受け透明感を増した銀色の瞳を、こちらへ向けた。
「シェナ……今は正式な名前で呼びます。クレア・ロゼ・レミントン。建国祭のために、わたし、オルゼア・R・エリソンのパートナーを務めてくださり、ありがとうございます。西都に戻ることで、パートナー契約は終了です」
そういえば、そうだった。
西都に戻ったら、私とルーファスの関係ってどうなるのかしら……?
「西都に戻ったら、今度は婚約契約書に、サインをしていただけますか。わたしはクレアに求婚します。愛しています。わたしの聖皇妃となり、生涯を共にしてください」
「ルーファス、私……」
嬉しいのに鼻の奥がツンとして、両目に涙が溢れてしまう。
「シェナ、嬉し泣きをしているのですか? それはつまり、答えはイエスということですか?」
「勿論、イエスに決まっているわ。大好きよ、ルーファス!」
立ち上がったルーファスに抱きつくと、ルーファスは私をぎゅっと受け止めてくれた。長い時間と、辛い別れを経て、ようやく私はルーファスと結ばれることができる。
勘違いもあり、再会できても、一筋縄ではいかなかった。
でもようやく、すべてに決着がついた。
とても数奇な運命だったと思う。
でも、それも今、この瞬間に帰結するための、運命だったと思える。
月の光に祝福され、ルーファスと私は、永遠の愛を誓うキスを交わした。
~ fin. ~
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本当に、本当に、ありがとうございます。
一気読み派の読者様、読了、お疲れさまでした!
最終話まで、ありがとうございます。
長い旅の末のハッピーエンド、ページ下部の
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