65:なぜ……?
「人を苦しめる時には、二つの方法がある。一つは本人を苦しめる方法。もう一つはその本人が大切と思う者に手を下す。前者でことごとく失敗した。だから後者を選んだ。そしてそのターゲットが、愛弟子だった」
師匠は、恋に落ちた眼差しがどうのと言っていたが。聖皇が初めてパートナーを伴い、王都へ来たのだ。同伴者の女性と共に、建国祭という公の場に立った。少なからず何かの縁がある女性だ。その相手を害すれば、聖皇が責任感を覚え、悲しむなんて、別にアナベルではなくても想像できる。
自分が狙われると考え、もっと用心すべきだったと思う反面。
アナベルの賢さは、間違った方法で活かされてしまったと思う。まさか自身の娘をだしに使うなんて。あの出会いが仕組まれたものなんて思えなかった。アナベルが捕らえられることになった場にはマヤもいた。彼女は今、どんな心境なのだろう……。
「子供に罪はないからな。第二王妃の愛娘であるマヤ。あの子は心底、愛弟子のことを心配していた。急に母親と引き離され、王宮の自身の部屋に閉じ込められているが、母親へ手紙を書き、そして――」
師匠が魔法を唱えると、私の手元にリボンで結わかれた数枚の羊皮紙が現れた。
「これは……」と言いながら、ピンク色のリボンを解くと、そこにはクレヨンで描かれた二人の大人の女性とその間に子供がいる。アナベルとマヤと私……ということね。
「早く元気になって、三人でお茶をしたいと描いたそうだ」
師匠の言葉に他の羊皮紙を開くと、そちらには美味しそうなケーキやクッキー、チョコレートが描かれている。私らしき女性を紙いっぱいに描いたものもあった。
国王陛下との間に、こんなに可愛らしい娘だってもうけたのだ。王宮でも、確固たる地位を築くことだって、できていた。正妃ではなくても、第二王妃として。穏やかに生きることは……アナベルにはできなかったのかしら?
「子供に罪はない……ということですが、クロエはどうなるのですか?」
「同じ子供とはいえ、あちらは側妃の一人だからな。子供の扱いはされない。とはいえ、第二王妃に利用されていたことは、間違いない。建国王の霊廟で扉を封じた聖なる力は、クロエだった。モンスターから守るためだと第二王妃に言われ、聖なる力を使っていた。つまり騙されていたわけだ」
アナベルのあの態度は、クロエからしたら母親のように感じられただろう。まだ幼くして他国の王宮へやってきて、どれだけ心細かったか。クロエがアナベルになつき、簡単に騙されてしまっても、仕方ないことだった。
とはいえ、アナベルのクロエヘの要求は、エスカレートしている。死人も出ているのだ。いくらなんでもこの異常事態を、国王陛下に相談しなかったのは、なぜだろう……?
「クロエ妃殿下は、最初は騙されていたわけですよね。でもアナベルの要求は常軌を逸しています。何か弱みを握られていたのでしょうか……?」
「そうだな。それを聞き出すには骨が折れた。相手はまだ子供だし、下手な魔法を使いたくない。そうしたら思いがけないところから情報が舞い込んだ」
師匠はニヤリと笑い「誰だと思う?」と尋ねるが、まったく見当がつかない。正直に「分かりません」と答えると「リアス王太子だ」と師匠は言うと、レモン水をごくごくと飲む。私もレモン水を飲みながら考える。
え、王太子……?と。
ライト副団長が、師匠と共に動いてくれたことは、分かっていた。でも王太子が直接的に関わってくるのは、全く予想していなかった。
「クロエと王太子は、年齢も近い。舞踏会や晩餐会、国の行事で顔を合わせることも多かった。そこで二人は仲を深めていた。王太子は婚約者もいる。よってクロエのことは、友達とでも思っているだろうが……クロエの方は違うだろうな。その気持ちは友達以上、つまりは好意を感じている。二人の仲がいいことに気づいた第二王妃は、王太子の名を出し、クロエを脅していたようなんだ」
クロエがアナベルを恐れ、怯えていることに、王太子は気が付いた。でも自分の母親である王妃と第二王妃は、とても仲がいい。第二王妃がクロエに対し何かしているとしても、それを指摘するのは難しい。
でも今回、事件が起きた。母親である王妃は、第二王妃が白状した話を聞き、ショックを受けている。父親である国王陛下には、クロエのことだけに、相談しにくい。そこで王太子は、ライト副団長に話をした。
お茶会毒クッキー事件の捜査に、ライト副団長が携わっていることを知っていたからだ。ライト副団長はそれを突破口に、クロエに話を聞くことになった。




















