61:また会えるのかしら?
肉体が活動を停止し、その内に宿る魂が体を離れた後。
安らぎの世界で一定の時間を過ごすのか。過酷な世界で永遠にも感じられる苦しみの時間を過ごすのか。それは生前のその者の生き方によるようだ。
私の魂は安らぎの世界を経た後、新たに得た生では、試練を何度も乗り越えることになった。まるでこの世界では、そう簡単に幸せにはなれないと、言われているようだ。
だが試練を何度も乗り越えるごとに、私は強くなっていった。いつしか魔眼を手に入れるほどに。
そして気が遠くなるような時間を経て、事態はゆっくりと、だが確実に収束に向かっていく。
ついに離れ離れになっていた魂が、同じ時代、同じ世界に生れ落ちることとなった。気が遠くなりそうな時間を経て。
それでも、なかなか二人の魂は、出会うことがない。
しかし、運命の歯車は、動き出していた。
「ノクス! 今、助けるから!」
「ミレア、逃げろ! 奴の狙いは君だ!」「すべての元凶の魔法使い。道連れに……」
「ミレア!」
熱さによる激痛と、呼吸できない苦しみ。
そんな中、魔王ルーファスが囁いていた。
「すまないですね、シェナ、こんな形になってしまいました。でもこれが最後です。わたしはもう魔王ルーファスとして転生することはありません。今度はちゃんと守ります。転生して再会しても、思い出してください、わたしのことを」
師匠の代わりに道連れにされたと思っていた。
でも違っていたのね。
思い出せと言われていたが、あまりにも転生を繰り返していた。その間、ルーファスとはなかなか出会えなかった。ずっとずっとすれ違い、三百年後。やっと出会えたら……結局、いきなり心中だったじゃない!
でもすべてを思い出した、今。
会いたかった。
ルーファスに。
でも私、どんな状態なのかしら……?
現実と夢の狭間。
意識と無意識の狭間にいるみたいだわ。
真っ白な砂が広がり、空は昼間なのに星がキラキラと瞬いている。
不思議な場所。
ここに来る前の私は、お茶会に招待されていた。
お茶会……第二王妃と呼ばれるアナベルに偶然誘われたと思ったけれど……。
違うわ。
アナベルこそが、霊廟襲撃事件の真犯人だ。あのお茶会は仕組まれたもの。
私を狙った理由は不明だが、彼女には私を害したい訳があったのだろう。
そしてアナベルは、クロエが聖なる力を持つ聖女であると、気づいていた。さらにクロエのなんらかの弱みを握っている。それで脅し、協力をさせた。最初は、脅しではなかったのかもしれない。でも間違いない。私に毒入りクッキーを食べさせる時は、脅迫していたと思う。
聖女であるクロエは、聖皇……オルゼアときっと同じなのだわ。自身の体内に宿る力で、解毒ができる。だから毒入りクッキーを食べても、クロエには変化はなかった。
でも私は違う。食べてもいないのに。顔の近くにクッキーを持ってきて、そのバターの香りをたっぷりかいだだけで……。
まさに猛毒。
そしてそんな猛毒と最近、接する機会があった。
そう。
ヒュドラ―の猛毒で私は……。
ため息しか出ない。
安らぎの世界に召されてしまったのかしら。
またやり直しなのかな。
全てを忘れ、転生して、運がよければルーファスに……また会えるのかしら?