52:一体彼は……?
どうせドレスなんて見えないのに。
そう思ったが、触れたドレスの生地に感動する。初めて触れるシルク。なんて手触りがいいのだろう。しかもなんだかいい香りがする。繊細な刺繍、レース、フリル。指で感じる初めてに感動していると。
「これはネックレス。そしてこれはイヤリングです。パールという、海で手に入る宝石ですよ」
「ねえ、ファウス。これ全部、どうやって手に入れたのですか?」
「盗んではいないですよ。ちゃんと等価交換したものです。安心してください」
だがどう考えても、炭を一生売り続けても手に入らないもののような気がする。こんなに問い詰めるのは申し訳ないと思いつつ、不安になりしつこく尋ねると。
「モンスターを何体か倒しました。夜中に家を抜け出して。その対価として、金貨をもらっていたのです。それで手に入れました。……あとこれも」
ファウスが何かを取り出したようだ。
「魔法使いと交渉して手に入れました。これは目薬草。蕾の中の雫を目に入れると、一時的に視力が回復するそうです」
「魔法使いって……魔王討伐パーティにいる人ですよね? どうやって出会ったのですか?」
「それは……まあ、まずは目薬草を使ってみましょう」
ファウスに膝枕され、左、右の順で、目薬草の雫を目に入れると……。
ゆっくり目を開け、激変した世界に息を呑む。
「ファウス……あなたは……」
グレーのフードの下から見えるシルクのような長い黒髪。猛禽類のような金色の瞳。よく鍛えられた体躯を包む黒の上衣やズボン。肌は雪のような白さだ。
なんて美しいのだろう。子供の頃、村の教会で見た大天使の彫像のようだ。
「さあ、お姫様、起き上がってください」
テーブルには鏡が置かれていた。そこに映る自分を見て、またもビックリしてしまう。
そうだ。私の瞳は、紫色だったんだ。
着ているドレスは瞳と同じ色。
髪はこんなに伸びていたのね。銀髪は背中の半分までの長さだ。
「誕生日、おめでとう、シェナ。この目薬草を手に入れるのに、時間がかかってしまいました。魔法使いは厄介ですから」
そう言うとファウスが私をぎゅっと抱きしめた。
石鹸のいい香りが漂う。
「ねえ、ファウス、フードを外してもいいですか?」
「……構わないですよ、シェナなら」
ゆっくりフードを外すと……。
左のこめかみに鋭い金色の角が生えている。
人間ではないと思ったけれど、一体彼は……?
「バレてしまいましたね。シェナ、わたしのことが怖いですか?」
「……ファウス、ごめんなさい。あなたは人間ではない……と思うのだけど、では何かといわれると……分からないわ。それに怖い……? それはないです。全く怖くないわ」
するとファウスはお腹を抱えて笑い出した。
「わたしが誰だか分からないのですか? しかも怖くないのですか……?」
そこでファウスは笑うのを止めると、真剣な瞳で「ダンスをしませんか」と言い出した。「ダンス!? ダンスなんてしたことがないです。無理よ、絶対!」と言うと「わたしがリードしますから、大丈夫です」と言い、もう有無を言わさず、私の手をとり、腰を抱き寄せる。
パンプス……という貴族がはく靴だって初めて履いたのに。ダンスなんてできないと思ったけれど……。
ファウスの動きにあわせ、ぎこちなく体を動かしているうちに、なんとなくダンスができていた。
「すごいですね、シェナ。センスがあります」
「そ、そうかしら? ファウスが上手なのでしょう。……ねえ、ファウスは何者なのですか? 木を伐るのも上手だし、釣りも狩りもできる。武器の扱いにも慣れている。それでいて料理もできて、ダンスもできるのよ? でも人間ではないのですよね……?」
「知りたいですか、わたしが何者であるか。教えてもいいですよ。シェナがわたしを愛してくれるなら」
「えええええっ!」
話が飛躍しすぎて意味が分からない。しかもファウスを愛する!?
「さっきは父親だと思えって言っていたくせに!」
「前言撤回です。シェナがこんなに大人だと思わなかったので。わたしは急にシェナを、女性と意識することになりました」
「な、何を言っているのですか! き、鬼畜だわ! もう出て行ってください!」
「まあまあ、そう怒らないでください」と言われるかと思った。だが……。
お読みいただき、ありがとうございます~!
毎日更新を追いかけてくださっている読者様に感謝を込め増量更新中。
引き続き物語をお楽しみくださいね。
本当に読んでいただけて嬉しいです(感謝☆彡)




















