18:理由
オルゼアを狙う黒幕が判明した。
わずか数日で黒幕が誰であるか辿り着けるのだ。そこのリサーチ力は、さすが師匠。
その黒幕は、王太子の近衛騎士の副団長を務めるライト・アーク・スタンリーだった。現在二十三歳で、オルゼアとは同い年。王都に住むライトは、逸材として知られている。なぜなら彼は、神聖力を持つ騎士だからだ。ゆえに国王陛下と王太子からの信頼も厚い。さらに彼は王道を行く騎士道精神の持ち主であり、文武両道で容姿端麗、親切で優しく、非の打ち所のない人物だという。オルゼアを狙うような人物とはとても思えないが……。
オルゼアの命を狙う理由が、彼にはあった。ライトは先代聖皇の息子なのだ。
聖皇が聖皇妃を迎え、子供が誕生した場合。
それが男児であれば、かなりの確率でその子供が、次の聖皇となる。
その一方で、市井の人間が強い神聖力を持つこともあった。
つまり聖皇の子供であっても、彼以上に神聖力を持つ子供が現れれば、そちらが優先されるということ。例え聖皇の子供であっても、神聖力がより強い人物がいれば、そちらが聖皇に就くこともあったというわけだ。そしてオルゼアはこの経緯で、聖皇に就くことになった。
オルゼアの父親は、西都の町医者であり、母親は花屋の娘。貴族でもない平民の息子だったオルゼアだが、子供の頃より、その強い神聖力で、父親の患者を助けていた。すぐにオルゼアの力は噂となり、その当時の聖皇も、彼の存在を知ることになる。
聖皇の息子であるライトとオルゼアは、その時、共に六歳。神聖力がどちらか強いのか。判定が聖皇庁で行われることになった。ライトも父親である聖皇に匹敵する神聖力の持ち主。だが相手が悪かった。オルゼアは、ライトの父親である当時の聖皇さえ上回る神聖力を持っていた。ライトがオルゼアに、かなうわけがなかった。
こうしてライトとオルゼアの運命の明暗が分かれる。
当時のライトは自身の神聖力がオルゼアの足元に及ばないことを認め、すぐに騎士を目指すことを、父親である聖皇に表明。ほどなくして王都へと向かった。一方のオルゼアは、そのまま聖皇庁に引き取られることになる。そこで次の聖皇となるべく、教育を受けることになった。
潔く次の聖皇になることを諦め、騎士となるべく王都へ向かったライトは、立派な人物としてこの西都でも語られることになる。そして実際ライトは、西都で次の聖皇となるため励んでいたことなど忘れたかのように、騎士になるべく日々の修練を行っていたようなのだが……。
オルゼアが国王陛下の要請で王都へ向かった時。つまりは産後の肥立ちが悪い王妃を癒すために王都へ行った際に、どうもライトと再会を果たしたようなのである。そこからだ。オルゼアを狙う暗殺者が暗躍するようになったのは。
一度は認めたオルゼアに、なぜライトが牙を剝くようになったのか。王都での再会で何があったのかまでは、分からない。可能性の一つとして、国王陛下に呼ばれるまでになったオルゼアが、再会したライトを馬鹿にした……ということも師匠の報告書には書かれていた。
でもそれはないと思った。
もし魔王ルーファスとして覚醒していたら、そんな言動をしたかもしれない。でもそうではないオルゼアがライトに対し、馬鹿にするような態度をとるとは、考えられなかった。
そうなると考えられる最大の理由、それは……。
聖皇妃も迎えていなければ、子供もいないオルゼアが暗殺されれば、ライトは西都に呼び戻され、聖皇に就任することになる。ライトはそうまでして、今も聖皇になりたいと思っている……?
ライトは王太子の近衛騎士であり、副団長として、既に確固たる地位を手に入れている。このままいけば、将来的に団長になるのも夢ではない。輝かしい未来を約束されているのに、そちらを捨ててでも、聖皇の座を狙っている……?
師匠の調査では、ライトは「自分は神聖力も使える騎士なので、戦闘で負傷した仲間を、その場ですぐに助けることができます。あってはならないことですが、万一にも王太子様が傷つくことがあっても、自分が救うことができます。よって聖皇ではなく、近衛騎士になれて良かったと、心から思っています」と発言しているというのだ。
これがライトの本心であるなら、彼は聖皇の座を狙っているわけではない。そうなると、ライトがオルゼアを狙う理由は……。もはや個人的な恨み。聖皇の息子である彼に恥をかかせたことへの恨みぐらいしか、ライトの動機は考えられなかった。
◇
オルゼアを乗せた馬車は、今頃どの辺りかしら?
ドレッサーチェアから立ち上がり、窓から外を眺める。
綺麗に磨かれたガラスに、自分の姿がクッキリと映り込む。
オルゼアから贈られてきた、シルクオーガンジーの透明感のある水色のドレスを着た私が、窓に映り込んでいる。スカートに飾られたリボンが立体裁断されており、とても美しい。この立体裁断により、座っても立っていても、変わらぬシルエットをキープしている。上に羽織ることになる、ホワイトシルバーの厚手のウールのロングケープとの相性も、抜群だろう。
「ピチィーック、ピチィーック」
窓のすぐそばに、紫の羽に白い尾羽の鳥の姿が見えた。これは師匠が魔法で送って来た、伝令の鳥だ。メイドに部屋から出るように頼み、すぐに窓を開け、鳥を部屋の中に入れる。鳥はすぐに師匠の声を、話し出す。
「やあ、愛弟子。おめかしはできたかな? お前の防御魔法でカバーできない範囲は、俺の魔法で見張っているが……。すごいな。この時を待っていたとばかりに、暗殺者が次々と現れているぞ。珍しいことに、魔法使いもいた。申し訳ないが、これは俺への挑戦かと思い、徹底的につぶさせてもらった。つまり、俺の方であらかた始末してしまったが、これでよかったのか? 聖皇を守る聖騎士も相当な数だ。だから俺が手を出す必要はなかったかもしれない。ただもし俺が何もしなかったら……。いざとなったら魅了の魔法を俺に使えと言っていた愛弟子にとって、今回の俺の対処は、正しいものだったのかな?」
予想はしていたが、そんなに暗殺者が? 狙われるのは王都についてからと思ったけど、そうではないのね。しかも魔法使いまで使うなんて……。
魔法使いを雇うには、相当のお金を積んだはずだ。そこまでしてオルゼアを狙っているのね……。
魔法は聖官や聖皇には行使できない可能性が高いが、彼ら以外を狙うことはできる。例えば馬。馬車。彼らが渡る橋。崖崩れを起こす、木を倒す、火を放つ……など、暗殺の手段として魔法は活用できる。ゆえに魔法使いを雇ったライトの判断は、正解だ。
ただ、今回は分が悪いと言わざるを得ない。だって師匠がいたのだから。
天下無双の大魔法使いの師匠は、挑まれると受けて立つタイプ。自分からは挑まないくせに、挑まれると、俄然やる気になる。今回金の誘惑に負け、師匠とやり合うことになった魔法使いには「ご愁傷様です」と言うしかない。
それにしても「今回の俺の対処は、正しいものだったのかな?」と問われると、本当に困るわね。自分の中でも、オルゼアの安否を気にし、守ろうとすることを、必死で正当化しているというのに。
でも、答えは一つだ。
オルゼアはまだ覚醒していない。魔王ルーファスの記憶が甦っていないのだ。今はただの聖皇。だから守る。
このことを師匠が送ってくれた鳥に伝え、窓を開けた。鳥は勢いよく、窓から外へと飛び立っていく。
それからしばらくすると。私がカバーする防御魔法の範囲で、異変を感知した。魔眼を使い透過魔法を行使し、遠隔魔法で状況を察知する。
なるほど。確かにすごい数だわ。
聖皇の乗った馬車の隊列の周囲には、不穏な動きをする人間が沢山いる。倒木を試みて、道を塞ごうとしている輩もいた。
仕方ない。ここは魔法使いが動いていると分からせ、手出しできないようにしよう。
いくつかの暗殺者の集団を、まるっと別の場所へ転移させた。
次は……。
師匠!
相応な数の暗殺者に、魔眼を行使した上で、遠隔魔法を発動させながら、攻撃系の魔法を行使するのは、骨が折れる。だが師匠は、私の防御魔法の範囲にオルゼアがいるのに、引き続きサポートをしてくれていた。暗殺者の集団を、ごそっと落とし穴にはめたりして。
懐中時計を見る。五分だから十五分の活動停止ね。
魔眼をクールダウンの合図と共に停止し、身動きを止める。
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