ありがとう 9
アルバイトを辞めた翌日、僕は病院へ行った。
感謝病は不治の病。これといった治療法がない。だから、その日も、ただ検査をした。
先生に訊いたら、明日も、明後日も、ひたすら検査をするらしい。
「そうやって検査を繰り返しているうちに、万に一つの確率で治療法が発見されるかもしれない。それに掛けるしかない。頑張りましょう、スズキさん」
先生はそう言う。
僕は、次の日から、病院へ行かなくなった。治療が馬鹿らしくなったというか、生きる気力がなくなったというか、とにかく、それから3日間家に引き籠って寝込んでいた。
その日も、夕方まで寝ていた。
目を覚ますと、目の前に、恋人のルミがいた。
「わあ! びっくりしたあ! どうしてルミがここにいるの?」
アパートの、僕の散らかった部屋を、せっせと片付けている。
「どうしてじゃないでしょう? 大学には来ないし、何度電話を掛けても出ないし、ラインは既読にならないし、心配して家に押し掛けるに決まってるじゃない」
テーブルの上を布巾で拭きながら、ルミが言う。
当たり前だろう。これまで通りルミと会って遊んだり、電話でお話しをしたら、どれだけ「ありがとう」と連呼してしまうか分からない。苦渋の決断として、あえてルミとのお付き合いを断っていたのだ。
「どうやら、風邪が長引いているみたいね。安心して。あなたの風邪が治るまで、私が、このアパートに住み込みで看病してあげるから」
「ええ!……いや、でも」
「ケンイチは、よくできた彼女を持って幸せね。あら嫌だ、自分で言ってりゃ世話ないか。あはは。ほら、少しは感謝しなさい!」
「……ありがとう」
……余命、あと91回。