ありがとう 45
僕たちは、周囲の人たちの承認を得ながら、着実に二人の未来に向かって歩み始めている。
そして僕は、ひっそりと、こっそりと、しずしずと、死に向かって歩み続けてる。
ルミのご両親に結婚の許しを得た翌日、僕たちは、大学へ行き、退学の手続きを終える。
それから、二人が共通して特にお世話になった教授に挨拶をした。
「……そうか。二人とも優秀な学生だったから、大学を辞めてしまうのは、とても残念ですね。でも君たちが決めたことだからね。頑張って下さいね」
「本当は、先生のもとで、もっと勉強したかったです」
「私も同じです」
僕とルミは、正直な気持ちを教授に伝えた。
「ケンイチくん。ルミさん。学問は、学校でなくても出来ますよ。図書館行けば、たくさんの本があります。そこで本を読みましょう。社会に出れば、たくさんの人に出逢います。その人たちから学びましょう。社会人の毎日は、一見してありふれた陳腐なものですが、実はその一日ごとに、必ず特別な気付きや発見があります。それを見逃さず、しっかりと捕まえましょう」
教授は、そう言って、僕とルミの手を握った。
二人並んで、頭を下げる。
鼻っ柱が、つーんと痛い。
「先生、お世話になりました。今日まで、ありがとうございます」
……余命、あと55回。




