ありがとう 43
「ねえ、ルミ、あなたは、日常生活の中で、目眩がしたり、重度の倦怠感を感じたりすることはない?」
ルミが落ち着きを取り戻したのを見計らって、お義母さんが、ルミに話しかける。
「……ママ、何よ突然。質問の意味が分からないわ」
ハンカチで涙を拭いたルミが、首を傾げる。
「感謝病の症状よ。パパの家系には感謝病で亡くなった人が多いらしいの。癌と一緒で、なりやすい家系があるって病院の先生がおっしゃっていたから、ママ、あなたが心配で……」
「目眩や倦怠感? 月イチの生理の時に、あると言えばあるけど、今は妊娠中だし……」
「吐血したりしない?」
「するわけないじゃん! ケンイチじゃあるまいし!」
「嫌だ。ケンイチくんは、吐血するの?」
「いや~、一時期、体調が優れない時期があって……でも、今はすっかり治っています。あはは」
ばれたか?……いや、どうやら大丈夫そうだ。急に話題がこちらに向いたので、僕は焦った。
「ケンイチくんもルミも、もう一人の体じゃないんだから、とにかく健康には気を付けてね」
お義母さんの言葉が身に染みる。「実は僕も感謝病なのです」と喉まで出かけるが、やはりとても言い出せない。
「うん、気を付けるね。ママ、ありがとね」
「お義母さん、ありがとうございます」
……余命、あと57回。




