ありがとう 42
「――お義父さん、今なんと?」
「うちの娘と結婚がしたのだろう? そっか、そっか、そ~なんだ~。こうなってしまった以上、しゃ~ないもんね。ルミ、ケンイチくん、了解だよ」
「パパ、ありがとう!」
ルミが、ベットに横たわるお義父さんに、抱きついて離れない。悪寒が走るほどあっさり承諾するので、僕はいよいよ椅子からずり落ちた。
「ルミ、お前は二十歳。もう大人だ。自分でよく考えて、好きに生きて行け」
「パパ、どうしちゃったの? なんだ物分かりが良すぎて、気持ちが悪いわ」
ルミも、さすがに不審に思い始めた。
「……実はね、パパは不治の病なの」
「え!」
「おいおい、ママ、今それ言っちゃうかね~」
お義母さんの告白で、和やかだった病室の空気が一瞬で凍り付く。
「よろしければ、病名を教えていただけますか?」
なんだか嫌な予感がした僕は、恐る恐るルミの両親に尋ねた。すると、お義父さんが、大きな深呼吸の後、ゆっくりと話し始める。
「ルミ、よくお聞き。パパは、感謝病という難病を患っている」
……やっぱり。僕と同じ病気だ。
「包み隠さずに言う。パパは、あと3回「ありがとう」と言ったら死ぬ」
……3回って。末期も末期。もう救いようのない末期だ。
「いやよ、パパ! 私、そんなこと信じない!」
突然の報告に、ルミが、ベッドに突っ伏し、咽び泣く。
「ケンイチくん。私は、もう長くない。ルミのことを頼む。なんだろうな、今日出逢ったばかりだが、君なら、きっとルミを幸せにしてくれるような気がする」
「お義父さん、ありがとうございます」
……余命、あと58回。




