ありがとう 39
僕たちは、ルミの両親のもとへ、挨拶にやって来た。
「ママ! 何で今日まで教えてくれなかったのよ、パパが病気だって!」
ルミが、お義母さんに詰め寄る。
「ルミ、今日まで隠していてごめんね」
お義母さんが、気まずそうにうつむいている。
なんと、ルミのお父さんは、入院をしていた。僕とルミとお義母さんは、パイプ椅子に腰を掛け、病室のベッドに横たわるお義父さんの顔を覗いている。
空手の師範代だと聞いていた。ルミを溺愛していると聞いていた。そんな愛娘をどこぞの馬の骨が妊娠させてしまい、しゃあしゃあと大学中退、結婚、妊娠、を申し出るのだ。半殺しにされる覚悟で挨拶に来た僕は、肩透かしを食らってしまった。
「ルミよ、ママを責めないでやってくれ。パパが病気だと伝えれば、ルミのことだから勉学に身が入らなくなる。だから隠しておけと言ったのは、パパなんだ。――それにしても、ルミが、都会の大学に進学してから田舎に顔をだすのは、これがはじめてだな。しかも、彼氏まで連れて。で、今日は一体何の用だい?」
お義父さんが、突然目を開いて、ペチャクチャと話し始めた。びっくりした~。寝ているのかと思った~。頬はこけ、空手の師範代らしからぬガリガリの体をしている。以前は筋肉隆々だったのかな。きっと病気のせいだろうな。
「……実はね、パパ」
ルミが、話しかける。
「待って、ルミ、僕が話すよ」
これは僕の口から言うべきだ。
「お義父さん、実は、ルミさんは、妊娠をしています。お腹の子は、僕の子です」
僕は、単刀直入に、お義父さんにそう言った。
「ほう、それは、おめでとう!」
「ありがとうございます。…………えっ?」
……余命、あと61回。




