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余命100ありがとう  作者: Q輔
第四章「妊娠」
36/46

ありがとう 36

「最近耳が遠くなってな。聞き間違いだろうか? 今、大学を中退したいと聞こえたが?」


 父が、実家の居間の座椅子に座ってそう言った。


 僕とルミは、両親と差し向いの位置で正座をして、畳に頭を擦り付けている。


「もう、お父さん。そうやって嫌味な言い方をしないの」


 父の隣で座布団の上で正座をしている母が、苦言を呈する。


 ルミの妊娠が判明した数日後、僕たちは、先ず僕の実家に向かい、僕の両親に一連の報告をした。


「お父さん。もう一度言います。お付き合いしているルミさんを妊娠させてしまいました。この上は、大学を退学し、結婚をして、真面目に働くつもりです。どうか許してください。」


「なぜ、避妊をしなかった?」


「え?」


「避妊をしていれば、このような事態は防げたはずだ。なぜ避妊をしなかったと聞いている」


 変らないな。昔から僕の父は、真面目で、頑固で、物事をオブラートに包んで話すことが出来ない。


「お父さん! なぜあなたはそういう言い方しか出来ないの! ルミちゃんが困っているじゃない!」


「……しかし、母さん……う~む」


 母が、声を荒げて父をたしなめる。父が黙り込んでしまった。自他ともに認める堅物の父だが、母だけには頭が上がらない。僕が女性に尻に敷かれるタイプなのは、父譲りだ。


 重い沈黙。僕とルミは、両親に土下座をし続けている。


 しばらくすると誰かのすすり泣く声が聞こえた。


「くううう。わしは、悔しい。死に物狂いで働いて、やっとの思いで一人息子を一流の大学に進学させたというのに……」


 父の声だ。


 まさか、父が泣いてるのか?


 僕は、慌てて顔を上げた。


 父の泣き顔を見るのは、はじめてだった。


 どうしよう。こんなに悲しませるとは思わなかった。


 こりゃあ、とてもじゃないけど、あと65回「ありがとう」を言ったら、あなたの息子は死にますなんて言い出せないな。


「大学を中退すること。ルミさんと結婚をすること。二人で子供を産んで育てること。どうか許してください!」


 僕は、あらためて頭を畳みに擦る付ける。


「許してください! お願いします!」


 ルミも、僕の後から、大きな声でそう言った。


「……よかろう。許してやる」


 父がぼそりと呟く。


「え? 今なんて?」


「大学を中退すること。結婚をすること。この二点については、許してやる」


「あ、ありがとうございます」


 


 ……余命、あと64回。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ちゃんと聞いて! 「ふたつ」だよ!!  なんだ、こっちのパバも尻にひかれてるじゃないですか(笑)
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