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「では、最後の問題――」
「え? まだ議題がありますか?」
「さて、どっちを先に行くべきか」
ルミが腕を組んで考え込んでいる。
「どっちとは?」
僕は、話の意図を掴みかねた。
「お互いの両親への報告よ」
僕は、否が応でも、話の意図を理解した。
「……報告なんてしなくても、なんとな~く過ぎて行かないかな。過ぎてくれるといいなあ。きっと過ぎてくれるさ」
「ケンイチ、現実逃避なしね! 大学中退! 結婚! 妊娠! 親に黙っているわけにはいかないでしょうが!」
「それもそうだね。じゃあ、ルミの両親への報告を先に済まそうかな」
「ちなみに、私のパパ、空手の道場の師範代よ」
「……マジ?」
「うん、冗談抜きで、ケンイチ、ふつーに半殺しにされるわよ」
「……そいう事なら、うちの両親に先に会っておこうかな。二度と会えないなんて事態が無きにしも非ず」
「どうやら、そのほうがよさそうね。脅すわけじゃないけど、私、パパにめちゃくちゃ溺愛されているからね。愛娘が、どこぞの馬の骨と一緒に帰ってきて、大学中退、結婚、妊娠、を申し出るのよ。ケンイチ、せいぜい覚悟してね」
「……生きて帰れるかなあ」
「心配しないで。私が全力で守ってあげるから」
「まじで、ありがと」
……余命、あと65回。




