ありがとう 32
僕たちは、僕のアパートに帰った。
ルミが、どこかしらお腹を庇うように、テーブルの椅子に腰をかける。外見上に何の変化も見られないが、彼女はあれで妊娠三ヵ月の身重なのだ。
台所で、病院でもらった薬を、ルミにバレないようにこっそりと服用する。これを飲むと、吐血が抑えられ、倦怠感も幾分か和らぐ。
「ルミ、どうする?」
「どうするって、何が?」
「何がって、赤ちゃんだよ。僕たちまだ学生だぜ?」
「て言うか、できちゃったことはフライングだけど、それ以外の問題は、順を追って解決して行きましょうよ」
「順を追ってとは?」
「そもそも、私たちって、結婚をするのかな?」
「そりゃあ、こうなった以上、せざる得ないだろうね」
「なーそのしぶしぶ感! まったくもう、それならそれで、やるべきことがあるでようが!」
「やるべきこと?」
「……あの~、私、プロポーズされていませんけど?」
「ああ、ああ、ああ、なるほど、そうだね、では、あらためまして――」
僕は、襟を正し、彼女の目を真っすぐに見て言った。
「ルミ、僕と結婚をして下さい。よろしくお願いします」
「了解しました。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ありがとう!」
……余命、あと68回。




