ありがとう 30
「まだ、そうと決まったわけじゃない」
「ただ遅れているだけかもしれないもんね」
「ルミ、ここは、勇気を出して検査をしよう」
僕とルミは、喫茶店を出て、その足で薬局へ向かった。
妊娠検査薬を買うためだ。
薬局に着いた。
僕は、自動ドアの前で、横にいるルミの手をしっかりと握り、
「大丈夫、僕が付いている。さあ、行こう!」
と、男らしく言ってみせる。
「やめてよ。恥ずかしいわ。その手を離してよ。カップルが仲良く手を繋いで妊娠検査薬を買う姿なんて見たことある? 店員にドン引きされちゃうわよ。あなたは、ここで待っていて」
ルミは、せっかく差し伸べた僕の手を振り払い、一人で店内に入り、妊娠検査薬を購入して戻って来た。それから、僕たちは近くの公園の公衆トイレに向かった。
女子トイレの個室に入ったルミを、僕は外で待っている。
彼女が、検査薬にオシッコをかけ、判定窓に陽性サインが出たら……
もし、そうだったら、どうしよう。
僕、まだ、大学生だぜ?
てか、あと数十回『ありがとう』を言ったら、死んでしまう身だぜ?
数分後、ルミが、トイレから出て来た。
「……どうだった?」
飛び出しそうな心臓を押さえながら、僕は尋ねた。
彼女が、僕に向かって検査薬を突き付ける。
判定窓には、なんだかもう嫌味なほど、くっきりとした陽性サインが。
「……おめでたです」
「え、いや、あの、その、……あざ~っす?」
……余命、あと70回。




