ありがとう 29
「あの時は、ひどいことをいっぱい言ってしまって、ごめんね」
僕は、ルミに頭を下げて謝った。
「許すわけないじゃない。あの言い草は、生涯忘れないわ」
後頭部に、ルミの言葉が刺さる。
「ルミを失って、あらためて君の大切さに気が付いたよ」
「調子のいいこと言ってんじゃないわよ」
「僕は、ルミがいなくちゃ駄目なんだ」
「ふん。ヘソが茶を沸かすわ」
「ルミ、愛しているよ」
「キャー、やめてー、悪寒が走るー」
ルミの不遜な態度に、僕は、さすがにキレた。
「おい!さっきから何だその態度は! 僕とやり直す気じゃねーのかよ!」
「もちろん、やり直すわよ。だって、こちらも、そうせざるを得ない事情があるから」
「……そう得ざるを得ない事情?」
「ケンイチ、言い出せなくてごめんね。実は私、ずっと来てないの」
「来てない? 何が?」
「月のものよ」
「月のもの? なにそれ?」
「女性の、月いちの、あれよ」
「女性の? 月いちの? あれええええ?」
「小学生かテメエはよ! 生理が来てねえって言ってんだよ! このタコスケ!」
ルミが、テーブルをドンと叩き、店内に響き渡る大声で怒鳴る。
店内の客が、一斉にこちらを見ている。
僕は、突然のルミの怒号と告白、それからこの店内の状況に唖然とし、一瞬取り乱してしまった。
「え、いや、あの、その、……あざ~っす?」
……余命、あと71回。




