ありがとう 26
こうなってくると、吐血道楽。
もうね、よ~く分かりましたよ。何をやっても駄目なもんは駄目、以上!
ボーダーライン見極めごっこは終わりだ。いや、ごっごのつもりはなかったが、結果的にただの悪ふざけになってしまったことは否めない。反省しよう。
ふらつきながら病院へ向かう。
「スズキさん、からだボロボロじゃないですか! 何故こんなになるまで病院に来なかったのですか!」
僕に余命宣告をした先生が、僕の容態を診て、呆れている。
「感謝病は不治の病なのでしょう? 治療といっても所詮は延命措置なのでしょう?」
「そう言われると、返す言葉がありません。では、今日は何故ここへ」
「吐血を止める薬を下さい。そこらじゅうにケポケポと血を吐き、まともな生活が出来ない」
僕は吐血を抑える薬をもらい、病院を後にする。
その日から、体の調子が良くなるまで部屋に籠り、誰にも会わない生活をした。
人に逢わない生活をしていれば、人に感謝の念を抱かなくて済むわけで、おおずと体は回復をした。
気が付くと、ふた月が過ぎていた。
僕は、ふと、結構な分厚さの虚しさに苛まれる。
確かに体は回復をした。 でもこんな生活が、果たして人間らしい生活と言えるだろうか?
人に感謝を伝えられぬ、隠者のような生活。これで長生きしたところで、お前は本当に幸せなのか?
病気であろうがなかろうが、人間いつかは死ぬ。その最期の瞬間に、悔いのない人生だったと笑えるか?
逢いたい。
ルミに、どうしようもなく逢いたい。
僕は、意を決して、ルミに電話をした。
「……もしもし」
「……ルミ。僕だけど」
「……うん。なに?」
「……今から逢える?」
「……いいよ」
「……ありがとう」
……余命、あと74回。




