ありがとう 25
吐血ループ。
も、もうやめよう。このパターンは、もうやめにしよう。
こんなことを続けていたら、今日のうちに、路傍に転がる屍と化してしまう。
感謝病の闘病を始めるにあたりするべきことは、どの『ありがとう』がセーフで、どの『ありがとう』がアウトなのか、そのボーダーラインを見極めることではなかろうか。
この方向性は正しい。きっと正しいと思う。思いたい。
ただ、ボーダーラインを見極める、その方向性を少しだけ変えてみようではないか。
思い立ったら吉日。さっそく検証を始めるべし。
アウトの場合は、『けぽっ』と吐血をする。これ、明白なる事実。
性懲りもなく、表参道を一人で歩く。
さて。気持ちの全然こもっていない『ありがとう』なら、どうだろう?
なに語であれ、どんな言い回しであれ、感謝の気持ちのこもった言葉は、アウトなのではないか?
きっとそうだ。真摯な感謝の気持ち、それがアウトなのだ。
では、内心すんげ〜相手にムカつきながら、感謝を伝えたら、どうだろう?
感謝病の病原体様が、今度こそ、うっかり見逃してくれるのではなかろうか?
表参道を闊歩する。
頃合いを見て、僕は、道にわざとハンカチを落とす。
「あの~、ハンカチを落としましたよ」
僕の背後から、親切な人が声を掛けてくれる。
うるせえんだよバカヤロー。拾ってんじゃねえよコノヤロー。そんな小汚ねえハンカチ、こちとら、わざと捨ててやったんだよコンチキショー。人の落としたハンカチ拾って善人きどりかペッポコヤロー。
心中で相手を徹底的に罵りながら、くるりと振り向いた僕は、その通行人にこう言った。
「あ、すみまっせ~ん。ありがとうございますぅ~」
けぽっ。
……余命、あと75回。




