ありがとう 24
そら見たことか、吐血した。
十中八九しちゃうかなと予測していたが、ものの見事に吐血しちゃったね。
もうね、ぼかあ、ここまで来たら意固地になって考えますからね、ぼかあ。
それでもやっぱり、感謝病の闘病を始めるにあたりするべきことは、どの『ありがとう』がセーフで、どの『ありがとう』がアウトなのか、そのボーダーラインを見極めることではなかろうか。なんつってね。
うおおお、思い立ったら吉日。さっそく検証を始めるぞこの野郎。
これまでのように、アウトの場合は、『けぽっ』と吐血をする。その吐血が、今後も判定基準になる。
性懲りもなく、表参道を一人で歩く。
『ありがとう』を、イタリア語で言ったら、どうだろう?
英語の『サンキュー』は、もはやこの国に定着しきった言葉で、ある意味日本語という判断だからアウトだったのではないか?
きっとそうだ。現代日本における『サンキュー』はアウトなのだ。
では、すんごいネイティブなイタリア語で、なおかつチョイ悪風に感謝伝えたら、どうだろう?
感謝病の病原体が、僕の発言だと気付かず、うっかり見逃してくれるのではなかろうか?
表参道を闊歩する。
頃合いを見て、僕は、道にわざとハンカチを落とす。
「あの~、ハンカチを落としましたよ」
僕の背後から、親切な人が声を掛けてくれる。
……ネイティブなイタリア語、チョイ悪風……ネイティブなイタリア語、チョイ悪風……ネイティブなイタリア語、チョイ悪風……
心中で呪文のように繰り返しながら、くるりと振り向いた僕は、ハンカチを拾ってくれた通行人にこう言った。
「ぐらっちぇぐらっちぇ」
けぽっ。
……余命、あと76回。




