ありがとう 23
ね、吐血した。
だぶん、かな? と予測していたが、やっぱりね、吐血したよね。
僕は、懲りずに考えた。
でもやっぱり、感謝病の闘病を始めるにあたりするべきことは、どの『ありがとう』がセーフで、どの『ありがとう』がアウトなのか、そのボーダーラインを見極めることではなかろうか。うん、ぜっってーそうだよ。そうじゃなきゃ嫌だあ!
よし、思い立ったら吉日。さっそく検証を始めよう。
これまでのように、アウトの場合は、『けぽっ』と吐血をする。その吐血が、今後も判定基準になる。
性懲りもなく、表参道を一人で歩く。
『ありがとう』を、戦国時代の武士言葉に変換したら、どうだろう?
ひょっとしたら、現代人の僕が、現代語で『ありがとう』と言うからアウトだったのではないか?
きっとそうだ。現代人の、現代語の『ありがとう』はアウトなのだ。
では、すんごいネイティブな戦国時代の武士言葉で感謝伝えたら、どうだろう?
感謝病の病原体が、僕の発言だと気付かず、うっかり見逃してくれるのではなかろうか?
表参道を闊歩する。
頃合いを見て、僕は、道にわざとハンカチを落とす。
「あの~、ハンカチを落としましたよ」
僕の背後から、親切な人が声を掛けてくれる。
……ネイティブな戦国時代の武士言葉……ネイティブな戦国時代の武士言葉……ネイティブな戦国時代の武士言葉……
心中で呪文のように繰り返しながら、くるりと振り向いた僕は、ハンカチを拾ってくれた通行人にこう言った。
「恐悦至極に存じます」
けぽっ。
……余命、あと77回。




