ありがとう 20
けぽっ。
僕は、三たび吐血した。
駄目だこりゃ。マジで死ぬわ。
「……別れよう」
僕の体を抱きしめるルミに向かって、僕は、決定的なセリフを言った。
「え?」
「聞こえなかったのか。別れよう。そう言ったんだ」
「何でよ!」
「……聞くな。今は黙って出て行ってくれ」
「他に女でも出来たの?」
「……出ていけ」
「それ、本気で言っているの? 私、本気で出て行くよ? ケンイチと本当にお別れしちゃうよ?」
「……出ていけ」
ルミは、ひっくひっくと嗚咽をしながら、荷物をまとめ始めた。ルミ、ごめん。今はこうするより仕方が無いんだ。
荷物をまとめ、玄関で靴を履いたルミが、振り向いて僕に言う。
「はやく元気になってね」
「……出ていけ」
「ご飯、ちゃんと食べなきゃダメよ」
「……出ていけ」
「ケンイチが私のことをどれだけ嫌いでも、私はケンイチのことずっと好きだからね」
「はやく出ていけってば!」
「ケンイチ、今日まで、いっぱい、いっぱい、ありがとう! あれ、ごめん、約束の言葉で言うんだったね。ケンイチ、今日まで、いっぱい、いっぱい、うるせえバカヤロー」
号泣をしたルミが、部屋を飛び出す。
「ルミ、うるせえバカヤロー!」
僕は、消えかかるルミの背中にそう叫ぶ。
そして、静まり返った部屋でこう呟く。
「うるせえバカヤロー。……ほんと、こちらこそ、ありがとう」
……余命、あと80回。




