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余命100ありがとう  作者: Q輔
第二章「同棲」
18/46

ありがとう 18

「殺すぞアリガトー!」


 我ながらシュールな恫喝をしたと同時に、僕は吐血した。


 真っ赤な血が、フローリングに一面に広がる。


 ヤバい。『ありがとう』が着実に僕を死に追いやっている。


「け、ケンイチ。だ、大丈夫? すごい血よ」


 突然の出来事に、ルミが真っ青になってうろたえている。僕はフラフラと床に横たわった。


「心配するな、ルミ。これは、ナポリタンのケチャップだ」


「なにを馬鹿なこと言っているのよ。明らかに血じゃない。変ね。あなたの体、私が看病をはじめてからどんどん悪くなっているじゃないの」


 ルミが僕を抱きかかえ、口元の血をティッシュで拭く。


「ただの風邪さ。風邪みたいなもんは、寝ていればいずれ治る」


「これ、絶対に風邪じゃないよ。ふつー風邪で血を吐く? ケンイチ、私、救急車を呼ぶね」


 ルミが、慌ててスマホを取り出す。


「やめろ。僕を救助するのはやめてくれ」


 僕は、ルミから逃げるように布団へと這って行く。


「この状況で何を言っているのよ。救急車を呼ばれるのがそんなに嫌なの? だったら私が病院に連れて行ってあげるわ」


「やめろ。これ以上僕を介抱しないでくれ。感謝してしまうじゃないか。それよりも、ルミ、お願いがあるんだ」


「なに、何でも言って」


 布団に潜り込んだ僕はルミに言う。


「今から、ルミの足で、僕の顔面を踏んでくれ」


「いやよ!」


「だったらせめて、僕のことをバカだ、アホだ、さんざん罵ってくれ」


「なんでだよ!」


「僕は今、猛烈にルミに腹を立てたい。ルミを恨みたい。お願いだ。僕のことを心配してくれるなら、どうか感謝と対局の行為を、僕にしてちょうだい」


「……わかったゎ。釈然としないけど、とにかく今は緊急事態、あなたを罵るだけなら……」


 意を決したルミは、僕のために「バーカ! アーホ!」と精一杯叫んだ。


「いいぞ、ルミ、その調子!」


「バーカ! アーホ! バーカ! アーホ! バーカ! アーホ! 」


 自分の彼女にここまで言われるとは、なんたる屈辱。これぞ僕の望んだ感謝とは対極の行為。よし、今日のところは生き延びられそうだ。安堵した僕は、しみじみとルミにこう言った。


「ルミ~、ありがとな~」




……余命、あと82回。

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― 新着の感想 ―
[一言]  もはや、一発ギャグ。  節目節目で使うタイプの。
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