ありがとう 16
「……呆れた。あれだけ自分でお願いをしておきながら、もう約束を破っている。ケンイチ、あなたって本当に頭悪いわね」
「うるせえバカヤロー!」
「感謝をされる筋合いはないわよ。私、今あなたを侮辱しているのよ」
「いや、この『うるせえバカヤロー』は、そっちの意味の『うるせえバカヤロー』ではなくて、本来の意味合いでの『うるせえバカヤロー』だバカヤロー」
「何をおっしゃっているのか全然理解出来ないわ。もうやってられない。マジでうざい」
「うるせえバカヤロー!」
「どっちの意味だよ!」
「本来のほうだ!」
「ややこしいんだよバカヤロー!」
僕たちは黙り込んでしまった。
重い静寂が、アパートの一室を包む。
「…………ケンイチ、ごめん。言い過ぎた」
「僕のほうこそ、ごめん。ついカッとなってしまって」
「せっかくの二人の時間だもんね。仲良くやろう。私たち、今日から本格的に同棲をするんだよ。うふふ。ちょー楽しみじゃん」
「だね」
「さあ、気を取り直して、ルミちゃんが、腕によりをかけた料理を作りますからね。乞うご期待でございますぅ~」
ルミが冷蔵庫から食材を出し、夕食の準備を始めた。
「楽しみだよ。ルミ、ありがとね」
……余命、あと84回。