ありがとう 15
激しい倦怠感が全身を襲う。
みずからを死に導く言葉を、これだけ連発しているのだ。倦怠感程度の自覚症状で済んでいるなら、まだましなのかもしれない。
「ルミ、ごめん。気分が悪くなってきた。僕、しんどいわ。悪いけど、今日は、もう寝るよ」
「本当に大丈夫? お休みなさい。私は、そこのソファーで寝るね」
僕は、せっかくのアジのフライ弁当を、半分以上も残して、布団に横になった。
翌日、目を覚ますとルミはいなかった。大学の講義へ行ったのだろう。
「今日は、なんだか体調がいいぞ」
大人しく療養をしていればいいのに、暇を待て余した僕は、洗面所で白髪染めヘアカラーで白髪を染めた。まだ20歳だし、大した苦労もしていないのに、昔から何故か白髪が多いのだ。
日暮れ時。ルミが、自宅から、着替えや宿泊セットをたくさん詰め込んだバッグを抱えて帰って来た。
おや? ルミのヘアースタイルが、ショートカットになっている。
「ルミ、髪切った?」
「うん、たまたま美容院を予約している日だったのよ。伸びすぎちゃって鬱陶しいなあと思っていたから、ばっさりと切ってやったわ。どう、変かしら?」
「変じゃないよ。すごく似合っている」
「うるせえバカヤロー」
「な、なんだよ、その言い方は。僕は、君を褒めているんだぜ」
「あら、ケンイチ、二人だけの『ありがとう』の約束、もう忘れたの?」
「あ、そうだった、そうだった。 いや~、それにしても、よく似合っているよ。すごくカワイイ」
「うるせえバカヤロー」
「イメチェン、大成功だね」
「うるせえバカヤロー」
「惚れ直しちゃうよ」
「うるせえバカヤロー」
「……一旦落ち着こうか。なんだろう、なんかこう、無性に腹が立ってきた」
「あれ? ケンイチも、白髪染めたの?」
「うん。一日暇だったからね。どう、僕もルミみたいにイメチェン成功しているかな」
「うん、すごくいい感じ。若返った感じよ」
「あざーーっす!」
……余命、あと85回。