ありがとう 14
「きゃきゃきゃ。ケンイチって、本当に天然ね」
「きぃーーー。悔しいーー。僕の馬鹿! 僕の馬鹿!」
「で、何にする?」
「何って?」
「二人だけの『ありがとう』に代わる言葉よ」
「ああ、その話だったね。う~ん、そうだなあ。例えば『バカヤロー』ってどう?」
「バカヤロー??? 『ありがとう』の代わりに『バカヤロー』???」
「うん、『ありがとう』と『バカヤロー』。なんか、発声した時のイントネーションが似ているじゃん」
「確かにね。でもさ、似過ぎていると、うっかり誤って『ありがとう』と言ってしまいそうね」
「ルミは、うっかりさんだからね」
「あんたに言われくないわよ!」
「ひらめいたぞ! それなら『バカヤロー』の前に『うるせえ』をトッピングしよう」
「うるせえバカヤロー???」
「うん、これなら、意味もイントネーションも、かけ離れている。ルミも間違えようがない」
「了解。それでは、よーい、ドン! ただ今より、ケンイチと私の『ありがとう』は、『うるせえバカヤロー』に上書きされました。ケンイチくん、これで納得していただけました?」
「もちろんだよ。ありがとう」
……余命、あと86回。