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転生モブ令嬢の幼なじみはヒロインを御所望中  作者: いちご
本編・花祭り編レン視点(表記なしレン視点・その他視点名前入りであり)
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嬉しい殿下の変化(ランバート視点)

我が国には素晴らしい王子がお二人いらっしゃる。

皇太子殿下は3歳。

下の王子は2歳になったばかり。

我が国の誇る国王陛下と王妃殿下のお子様で、お二人の姿を模したお二人は大変に美しく、我が国自慢の王子である。

皇太子殿下は王妃殿下にそっくりで、とても綺麗で天使のように美しい。

下の王子は国王陛下によく似ていらして、男の子らしく活発で元気で笑った顔がとても可愛らしい。


そんな皇太子ファーレン・ルノア殿下に、私は忠誠を誓い生まれた時からお側にお仕えしている。


皇太子殿下のファーレン様は聡明で勤勉で、振る舞いなども全てが完璧で素晴らしい。

が、全くもって子どもらしくないのだ。

まだたった3年しか生きてないのに、なんだその落ち着きようわ!?

我が息子たちはもう成人したが、殿下と同じ歳頃は庭を走り回り転げ回り、子犬とどちらが我が息子かと思うほど日々泥だらけになり、妻と乳母が追いかけまわしていたと思うのだが?!

息子と娘4人の父親の自分だが、殿下の側にいるようになって感じたことは『こんな子ども見たことない』だった。


王妃殿下から受け継いだ美しいお顔立ちでとても綺麗なのだろうが、表情はいつでも無表情。

そのため感情が全く読めない。

子どもならわがままの一つくらい言ってもいいものを、全く周りに迷惑をかけることはなく物静か。

気持ちの浮き沈みを感じさせず、常に何事も淡々とこなす。

やればなんでもできてしまうため、何か一つに打ち込むという事がないのが残念だが、全てができてしまうため周りにはそうとは感じさせない。

なんでもできる天才肌の完璧な皇太子。

しかしこの完璧皇太子でも武術と剣術は苦手と感じているようだが、運動神経に大変恵まれているので勘とセンスでカバーできてしまう。

苦手といっても、皇太子はまだたったの3歳なのだ。

これからまだまだ伸びていく。

将来、それはそれは末恐ろしい大人になりそうだが、私はとても不安に感じていた。

子どもらしからぬ殿下はこれからどのように成長されるのだろうか。

と・・・



そんな殿下がある時、変わったのだ。


変わったきっかけは一人の姫君との出会いだった。



「殿下の婚約者様ですか?」


殿下は先ほど王妃殿下から渡された姿絵を私にも見してくださる。


「そうだ。父上様が決めた相手で僕の従姉妹殿だそうだ」


「それでしたらカサヴァーノ公爵家のアルメリア様ですね」


姿絵には小さな小さなとても可愛らしい姫君の姿が描かれていた。


「フェレノア様に似ていらっしゃいますね」


「ランバートはフェレノア叔母様をご存知なんだよな」


「はい。髪の色などは違いますが、小さな頃の面影を感じます」


その頃はまだ父が生きていて、私は父の補佐として王城に上がっていたが、父の手伝いよりも剣の腕を買われ当時の皇太子であった現国王陛下に剣を教えていたのだ。

そのためこのご兄妹と過ごすことも多かった。

記憶の中の小さなフェレノア様の姿と姿絵の姫君が重なる。


「可愛いい・・・姫君。・・・なんだろうなぁ・・・」


あまり気乗りしない言い方だが、珍しく興味はあるようだ。

何事にも無関心なのに、大変珍しい・・・と思った。



2週間後、殿下と共にカサヴァーノ公爵邸に入る。

これから1週間、殿下がアルメリア様とお近づきになるため一緒に過ごされるのだ。

アルメリア様はとても可愛らしく元気なお姫様だった。

子どもらしくよく笑い、周りを明るくしてくれる大輪の花のような方だ。

ちょっぴりおっちょこちょいなところがあるが、またそれがとても魅力的で可愛らしかった。


アルメリア様と一緒に過ごされるようになって殿下に少しずつだが変化が見られるようになってきた。

それまで花や植物などに全く興味のなかったはずが、毎日のようにアルメリア様に連れられて庭に散歩に出掛けるようになった。

初めはイヤイヤ引きずられるように出掛けていたのが、誘われるのを待っているような素振りが見られるようになってきた。

う〜ん、表情はあまり変わらないが、雰囲気が変わってきたような?気がする。

気のせいか?!



その日も殿下はアルメリア様に手を引かれて庭に出て行った。

なんだか嬉しそうにしているのは、多分勘違いではないはずだ。

お二人が散歩に出られる時は殿下の側には有能な影がついているので私はご遠慮し、殿下の身の回りの物を整えたり王城からの書簡の整理、使者と会うなどしていた



でもその日はいつもとちょっと違っていた。


「殿下、その花はいかがいたしましたか?」


帰ってきた殿下の手に黄色いフリージアが握られていた。

どこにでもある、特に変わらない普通のフリージア。

でも、殿下はそれをとてもとても大切に握っていたのだ。


「カサヴァーノ家の庭師がくれたんだ」


「そうでございますか。ようございましたね!」


じっと花を見つめていた殿下が、ぽつりぽつりと話しだす。


「不思議だな。花には一つ一つに花言葉というものがあるらしい。それを送ることで相手に気持ちを伝えることもできるのだそうだ。今まで花なんて気にもしたことなかったのに。なんだか不思議な気持ちになるのはなぜだろう?」


「花言葉でございますか?」


「あぁ。この黄色いフリージアには『無邪気』という意味があると共に、フリージアには『純潔』『信頼』そして『友情』というものがあるのだという。そういえば・・・白は?」


「殿下?」


「ランバート、僕図書室に行きたい。一緒に行ってくれるか?!」


「もちろんでございます」


急に何かを思い出したように顔を上げた殿下の表情は、自分の中にある何かを探すようなワクワクしたような、なんともいえない初めて見る顔をしていた。



カサヴァーノ公爵邸の図書室は王城ほどではないが、かなりの蔵書を保有していて立派だ。

確か今朝もアルメリア様と図書室に行かれていたはずだが、何か気になることでもあったのだろうか?

図書室に入ると殿下は真っ直ぐに植物や花の本が並ぶ本棚に向かい、何かを探すように背表紙を見つめ、一冊の本を手に取り閲覧できるテーブルに持っていき本を広げた。

それは花の図鑑だった。

植物がもたらす人体にもたらす効能や香り、群生地などと共に花言葉も書かれていた。

殿下はフリージアのページをじっと見つめていた。

そして・・・


花が開くように優しく笑ったのだ。


言葉が出なかった。

初めて殿下が心から嬉しそうに笑った笑顔に釘付けになり、思わず涙が出そうになるのを、ぐっと堪えるので精一杯だった。


「なあ、ランバート。アメリーは庭師のお爺さんに白いフリージアをもらっていたんだが、花言葉は『あどけなさ』だそうだ。アメリーにピッタリだな」


「そうで、ございますね」


喰い入るように図鑑を見つめる殿下の表情は、いつもと変わらない無表情に戻っていたが、時折興味を示すように口角がほんの少し上がったり、目尻が下がるなどわずかな変化が見られた。


この日から、殿下は少しずつ変わっていった。


お二人が苦手な野菜をこっそり取り替えて食べていることを、私が気付いてしまったことに対するバツが悪そうな表情。

邸内で探検ごっこをしていたはずのお二人が消えてしまい、大慌てで探すと鍵の壊れた地下室に閉じ込められていたのを発見し、私とアルメリア様のお兄様のノア様に大きな雷を落とされ叱られた時の顔。

そしてその後解放された二人が目を合わせて微笑んでいる姿。

アルメリア様に泣かれて慌てる様子。

二人で寄り添って眠る時の安心した寝顔・・・


誰でしょう、この方は?


殿下の皮を被った偽物に違いない。

あまりの変わりぶりに疑いだくもなるが、私の敬愛するファーレン殿下に他ならない。


しかし、この変化に殿下本人が全く気付いてないのだ。



1週間はあっという間に過ぎて王城に戻る日になってしまった。

出迎えてくれた時と同じように、カサヴァーノ公爵一家全員でお見送りをして下さる。

アルメリア様の手を取った殿下。


「アメリーとっても楽しかった。今度は城にも遊びに来てね」


「はい。レン様も、また遊びに来てくださいね」


寂しそうに笑うアルメリア様と、わずかに眉が下がりこちらも寂しそうな表情なのだろうと思われる殿下。

顔が近すぎると思うんですが。

う〜ん、甘い雰囲気を感じてしまうが、この二人まだ3歳なんだよなぁ。

名残惜しそうに離れると涙を目にいっぱい溜めたアルメリア様は、お兄様のノア様の腕の中に飛び込み抱きしめてもらっていた。


あれ?

周りの気温が一気に下がってような気がする?!が、気のせいだろう。


お礼を述べ、殿下と共に馬車には乗り込むと、カサヴァーノ公爵一家の皆様は馬車が見えなくなるまで見送ってくださった。

さてと、と目の前の殿下を見るとすごく不機嫌な表情をされていた。

な、な、なんですかその顔は?!


「どうかなされましたか殿下?」


「いや、何も。どうかしたか?」


「いえ・・・何も」


寂しそうな表情の中に苛立ちのようなものを感じ、不機嫌を隠すことができないなんて初めてのことだ。

アルメリア様との別れが寂しかったのはわかるが、不機嫌なのはなぜだ?

よくよく思い返してみると、思い当たることが一つあった。

もしそうなら、殿下は。


「ノア様は頼り甲斐のあるお兄様でいらっしゃいますね」


私の言葉にますます機嫌の悪くなる殿下に確信を持つ。

なんと殿下はノア様に『嫉妬』しているのだ。

私は思わず笑いが込み上げてしまい、ついには我慢できずに笑い出してしまった。


「ランバート?何を急に笑い出したんだ?」


「も、申し訳ありません。く、く、くくくく・・・急に笑いが。すいません」


私の急な笑いにわからないと首を傾げる姿も、可愛らしい。


よかった。

私の敬愛するこの方に人間らしい感情が生まれて下さって。

無表情、無気力、無関心の笑わない私の自慢の王子は、可愛らしい婚約者に出会って、感情というものを感じられるようになったが、初めてのことに戸惑っていらっしゃるようだ。


ただ、まだそれには気付いていないようだけど。



良い意味で変わられた殿下は、それ以降アルメリア様との親交を深めていかれた。

あの日のフリージアは殿下の日記帳に大事に挟まれていて、毎日その日の終わりにそっと眺めて優しく微笑まれている。

その微笑みを向けているであろう大切なお姫様を、これから私もお守りしたいと心から思ったのだった。


ファーレンの側にいつもいたランバート視点のお話です。

側にいたからこそ気づく、良い変化。

人間らしく感情を表すことができるようになってきたファーレンですが、これ以降段々嫉妬深くなり事故以降は溺愛と執着の激しさを隠すことがなくなり、別の意味で周りを不安にさせるのでした。


ランバートは登場の時から結構年上と決めていました。

それは大きくなったファーレンの側にいないからです。

ランバートはファーレンが10歳になる頃愛する奥様が体調を崩したことをきっかけに、爵位など全て息子に譲り領地に戻ってしまい、ファーレンの側から離れます。

ファーレンもアルメリアもランバートのことが大好きだったので、別れの時は寂しかったことでしょう。

しかし、この皇太子は規格外。

その頃は関わりを持たないようにしていたアルメリアを言葉巧みに騙してランバートに会いに、二人っきりの旅行を楽しむなどしてしまい、ランバートに地下室に閉じ込められてしまった時のように叱られる、なんて話も楽しそうだなあと思ってます。



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